伊藤探偵事務所の憂鬱 100

その後、顔を真っ赤にしてwhocaさんは黙り込んでしまった。
みんなとは反応が遅れて気がついたようだ。
和やかなムードで朝食が続いた。
昨日のことを、話す人はひとりもいなかった。
ただ、王が我々の長期滞在を望んだことと arieさんが曖昧な返事をしたのが気になったぐらいであった。
朝食は、何事も無く終わった。
KAWAさんが食べ終わるのを待っていたので、ずいぶん時間がかかった。
だが、やわらかい日差しと 静かな空気が時間の過ぎてゆくことへの苦痛を感じさせなかった。
全員が食べ終わった後、是非とも長期の滞在をと王から改めて依頼された。
食事が終わって、いったん各自が割り当てられた部屋に帰った。
すぐに、所長から呼び出しがかかり 所長の部屋に改めて集まった。
arieさんだけは、kilikoさんと何か小声で喋っていて なかなか来なかった。
みんなを集めて、真顔で所長が言った。
所長:「逃げよう」
「はい?」
KAWAさん:「やよ〜、まだおいしいもの食べる」
arieさん:「あたしも賛成よ、これ以上迷惑をかけるわけには行かないわ」
ぬりかべさん:「又やったんですね、所長」
所長:「不可抗力だ、知らなかったんだ」
「何をやったんですか? 所長」
西下さん:「やあ、準備できた?」
所長:「きっと、arieさんがkilikoさんに準備してもらっていると思うから大丈夫だよ」
arieさん:「あたしの飛行機にそんなに乗れないわよ! 勝手に帰ってよ」
所長:「そんな冷たい事言うと ばらしちゃうよ」
「何をばらすんですか?」
西下さん:「闇の宝石はど〜こだ?」
「あっ、もしかして・・・ で、所長のは?」
西下さん:「所長に言われて、ありがたい贈り物の数々を売払っていたら とんでもないものが出てきてね 国宝級なので持ち出せないことが判ったので このまま密輸するらしいよ」
「国宝級? 密輸? なんですかそれ?」
所長:「こんな辺境の地に、隠してあるとは思わないからえらいものが出てきちゃったのよ」
西下さん:「ダビデ王の・・・・って言ったら知っているか?」
「あの、イスラエルのテーベの都を作った・・・・聖書に出てくるあれですか?」
西下さん:「そんな物が出てきたら、当然 国宝級 王がなんと言おうと持ち出しなんか許可されるはずが無い 気がつく前に逃げとかないと 取り上げられる」
「そんなもの、返しちゃえばいいんじゃないですか?」
所長:「売れちゃったの。だから返せないの」
「だからお断りして」
所長:「法王に売りませんって?」
「法王ってローマ法王ですか?」
西下さん:「違う宗教の国からそんな物が出たら、下手すれば聖書を書き換えないと・・・ お断りしてはいそうですかって納得すると思う?」
「納得しなければどうなるんですか?」
西下さん:「アメリカを始め、キリスト教国から袋叩き・・・」
arieさん:「何でそんなにややこしいものを」
所長:「飲み屋の支払いが・・・」
“ばきっ”
いつもの音が響いた。
arieさん:「kiliko〜」
kilikoさん:「大丈夫ですよ、皆さんがお帰りになれますよ」
所長:「いつもすまないね」
KAWAさん:「う〜っ、ごはん」
arieさん:「お願い」
kilikoさん:「KAWAさん、飛行機の中は世界中のご馳走が並んでいますけどいかがされます?」
KAWAさん:「プリンもある?」
kilikoさん:「もちろん、滑らかクリームプリンのオレンジソースがけも在りますよ」
KAWAさん:「いく〜」
kilikoさん:「じゃあ、参りますか?」
空港まで、向かう車の中で所長とarieさんの罪のなすりあいが始まった。
あくまでも、これが「伊藤探偵事務所の日常」である。
誰が気にすることも無く、車は一路空港に向かってゆく。
KAWAさんはkilikoさんのお食事談義に聞き入ってる。
ぬりかべさんは、所長とarieさんなんか気にせず 西下さんと何か話している。
唯一、僕だけが arieさんが持って帰ってきた宝石のことや 所長が強奪してきた宝物のことで頭が一杯だった。
「伊藤探偵事務所の憂鬱」は僕のことだったのかもしれない。
飛行機に乗り込んだ。
やまさん:「がちゃがちゃ騒いでやがると 飛行機落とすぞ!!」