伊藤探偵事務所の混乱 1(伊藤探偵事務所の憂鬱 続編)

「えっ、200万ですか?」
ようやく事務所に帰って落ち着いたところで所長に呼び出された。
もっとも、落ち着かなかったのは いなかった間に自分の机から離れられない西下さんの残骸の片づけが終わらなかったからである。
所長から、ボーナスとして新しく作った預金通帳と 印鑑とカードが渡された。
その通帳に記入されていた金額に驚いた。200万と言えば・・・・ 僅か一週間の報酬としては高すぎると思ったのである。
所長:「じゃあ、君の命はそんなに安いのかね?」
そう言われてみるとそうである、しかし・・・
「やっぱり多すぎると思うんですけど」
所長:「いま、君は 一人前になったつもりかね?」
真面目な所長の質問
「いえ、そんなつもりは」
所長:「じゃあ、われわれの言うことに従いなさい」
優しい顔で所長は諭すように言った。
arieさん:「無駄遣いしちゃ駄目よ、1回20万ぐらいにしときなさいよ 特に食いしん坊の彼女には気をつけなさいよ」
図星を指された。
飛行場で「じゃあね」とKAWAさんとそのまま別れてしまった。
西下さんには、「考えてもごらん、諜報機関の人が 同じ人の前に二度と姿を現すと思うか? もし会ったとしても少なくとも別の人としてだよ。ちゃんと、恋人の約束をしとかない 君が間抜け。」 と、いわれた。
「普通の恋愛のようにはいかないのよ」とarieさんに慰められた。
僅か、数分後には事務所中のメンバーが全て知っていたから きっと後ろで笑っているんだろう。
kilikoさんに相談したら、「居場所は調べてあげるけど、行ってどうするの? KAWAさんが人殺しでもしてるところを見学に行くの?」 と、とどめを刺されてしまった。

だが、それは昨日まで、実は昨日、KAWAさんから連絡があった。
皆が心配することなんか何も無いかのようにいつもの調子。
KAWAさん:「やっほ〜、元気? もばちゃん 明日暇なら デートしよっ!!」
「もっちろん、何時にどこですか?」
昨日、待ち合わせをしたのである。
今なら、何を言われても気にならない。
あんなに拒んでは見たが、実はボーナスは喉から手が出るほどありがたかった。
残り少ない僕の財布では、食事代が割勘すら怪しかったのである。
arieさんや西下さんに気が付かれない様にこっそり出かけた。

銀行に行って、ひと悶着はあったが、即日発行のクレジットカードと幾ばくかの現金を持ってデートの場所に向かった。
随分、待ち合わせ時間より早かったが せめてプレゼントの一つも買ってゆこうと あちこちの店を廻りながら向かった。
KAWAさんの好きなもの・・・どう考えても、食べ物しか思いつかない。ぬいぐるみや宝石を貰った顔を想像すると残念ながら、シュークリーム一つ貰ったKAWAさんの笑顔に勝てないような気がして なかなか手が出なかった。
習慣か無意識に缶コーヒーを買って 街角で立って飲んでいた。
ため息が出た、女の子の気に入るもの一つ捜せない自分にいらいらした。

arieさん:「あら、お久しぶり」
町を歩いていたら古い顔見知りに会った。
向こうは、露骨に嫌がる顔を すぐに作り笑顔で隠した。
arieさんも長身の女性だが、相手も同じぐらいの身長である。
これは、悪い意味ではなく自己主張の強い 普通の男たちだったら気後れして声も掛けられない雰囲気も同じだった。
女性:「あら、何年ぶりかしら?」
相手も、勿論arieさんの事を覚えているようだった。
男:「誰か紹介してくれない?」
気後れするような美女を相手に、釣り合う男が言った。
女性:「あたしの古い友人のarieよ、昔 よく一緒に海外旅行したのよ。ね」
arieさん:「そうね、最後はいつだったっけ? 確か、砂漠の国だったような・・」
女性:「そうだったかしら、立ち話もなんだから一緒にお茶でもいかが?」
あせったふうに、arieさんを誘った。
男:「そこのcafeでどうかな?」
arieさんは、チラッと値踏みをするように男を見て そのまま目線を女性に移しにこやかに睨み付けた。
arieさん:「じゃあ、ご馳走になろうかしらerieriちゃん。積もる話もあるし」
erieriさん:「そうね、あたしもその後のお話をお伺いしたいわ」
erieriさんと呼ばれた女性は、慌てた様子から 少しイライラした表情を必死で笑顔で押し隠し答えた。
男は、二人の美女をはべらせて、少し得意顔だった。後の恐怖が予想できなかったようだ。