伊藤探偵事務所の混乱 2

女性が二人並んで、対角に男が座る少し変わった並びに座ったことが 男には疑問に感じた。しかし、二人の関係がわからない男は進められるままに向かいに座った。
女性二人はお互いに目配せをして寄り添うように並んで座った。
erieriさん:(何しに来たのよ!) 小声で言った。
arieさん:「eriちゃん、久しぶりにあえてうれしいわ」
小声の言葉など聞こえていなかったかのように にこやかに話を始めるarieさん。
続けるarieさん
arieさん:「砂漠ではぐれてからさびしかったのよ! 連絡先も変わっていたし」
arieさん:(あの時、よくも置いていったわね)
耳元で、erieriさんにだけ聞こえるように小声で言った。
erieriさん:「何度も探したんだけど、見つからなかったのごめんね!」
erieriさん:(そんな事より、宝石はどうしたのよ!! 持って行ったでしょ!!)
しゃべる度に、お互いの耳元に囁きあう美女の姿は 周りから見れば一種怪しい雰囲気が漂った。その、怪しい雰囲気は 欲情的な気分を煽るもので 周りの男たちの口元から漏れるのはため息だけだった。
もちろん、向かいに座った男は、一層得意げになっていた。
勿論、当の本人たちは周りの様子など 微塵も気にしていなかった。
arieさん:「砂漠の日差しはきつくて、後のお手入れが大変だったのよ」
arieさん(砂漠を脱出するのがどんなに大変だったか あなたに解る?)
erieriさん:「でも、ちっともそんな風に見えないわ」
erieriさん:(そっちこそ、コイン一枚残らず持って行って、一文無しで逃げ出すのだって大変だったんだから)
向かいで聞いている男にとっては、なんでもない会話だったがその表情は微妙に変化していたのは肌で感じていた。
二人は、感情を押し隠す為に徐々に笑顔の度合いを強めていった。
笑顔にも種類があるように、口元から発生するアルカイックスマイルもあれば 口を大きく開けて笑う姿もある。
大きく顔を崩す笑いは、顔全体のバランスを崩す。
彼女たちは、そんな無様な事はしない。
普段は、聖女もこうあるだろうやさしいスマイル。しかし、感情が高まるにつれファッションモデルがするように、目をきつく引き絞り 口元だけで笑う笑顔に。
唯でさえ近づきがたい女性が、二人そろって 徐々にその顔をきつく変化させてゆく姿に段々、 周りに敏感な子供たちが近づかなくなってきた。
ウエイターが注文をとりに来た。
数歩下がった先から、男のほうに注文を聞こうとか細い声を上げた。
男は普通に、少し甘い“カフェモカ”をオーダーした。
ウエイターの態度に気が付いていた男は、二人の女性にも自ら声を掛けた。
erieriさん:「あたしは、ロイヤルミルクティ
arieさん:「あたしは、トルココーヒーでも貰おうかしら ビターなやつを」
arieさん:(置き去りにされてから、トルココーヒーが好きになったんでね!)
erieriさん:(しつこいわね、いつまで小さな事をごちゃごちゃ言ってるの)
ウエイターが蚊の鳴くような声で「トルココーヒーは・・・」
語尾は消えて無くなってた。
二人の女性は、会話を中断されて気が緩んだ瞬間に その笑顔が瞬間解けた。
1秒にも満たない時間ではあったが、二人の女性から睨まれた。
気の毒なウエイターは、その場に座り込んで 言葉を失っていた。
男は、カウンターに 「エスプレッソでいいよね」と言いながら 3人分の注文をしに歩いていった。
さすがにerieriさんと釣り合って歩いていた男性である。そつの無い機転が利く。
arieさん:「ありがとう」
語尾が上がり、きつくはなったもののarieさんは笑顔で男に礼を言った。
arieさん:(命がけの砂漠横断が、些細なことって言うの)
erieriさん:(現に生きてるじゃない、あんな程度で死ぬほど繊細には出来てないでしょ)
arieさん:(お蔭様で、原住民から砂漠の英雄って称号を貰ったわよ)
erieriさん:(原住民を相手にするのが似合っているわよ、それより宝石はどうしたのよ 分け前よこしなさい)
arieさん:(原住民の女王になったものでね、女王はお金がかかるものよ。勿論、ありがたく使わせていただきましたわ)
erieriさん:($2000万はあったでしょ?)
arieさん:(さー? 忘れちゃった)
既に、二人は表の会話を忘れてお互いの耳元に お互いの悪口を言うだけになっていた。
向かいに座った男は、その雰囲気のおかしさに気が付いたものの、いい男の代表のような仕草、女性の全てを許容するような笑顔で答えていた。
arieさんも、erieriさんもひじをテーブルに載せて楽な姿勢を取っていたが ウエイターがいやいや飲み物を持ってきた瞬間、大きな音を立ててテーブルに変化が現れた。
“ばきっ”
女性二人のひじの辺りから、テーブルはひびが 男のほうに向かって走っていった。
男の笑顔が、少し凍りついた。