事件

伊藤探偵事務所の混乱 4

erieriさん:「ずいぶん趣味が悪くなったわね・・」
arieさん:「今日はデートだって! それより、今買ったの見た?」
erieriさん:「最近、不法滞在者が売るコピーじゃない」
arieさん:「良く見なさい! 貴方のほうこそボケが始まったんじゃない?」
erieriさん:「・・・・・・あっ、なるほど 面白い子ね。あの年で良くわかるわね」
arieさん:「それが・・・・偶然なの 体質みたい」

とりあえず、買い物が出来たので 待ち合わせ場所に急いだ。
と、いっても まだ一時間近くも前である。
待ち合わせ場所に、相手がいるはずも無く ただ、立ち尽くすだけであった。
街中に良くある、ストリートパフォーマーたちが時間を潰してくれる。
勿論、彼女に待たされる気分を味わうのも悪くなかった。

arieさん:「ところで、まだ たちの悪い連中と付き合ってるの?」
erieriさん:「あれは、貴方のお友達じゃあないの?」
arieさん:「言ったでしょ、看板娘って 欧州の人に付きまとわれる覚えは無いわ」
erieriさん:「KGBが解体してからは 付き合いは無いはずだけど・・・・」
男たちが数人集まって来た。
arieさん:「どっちにせよ、あたし達のどっちかね」
erieriさんはミルクティーを飲み干して、地面にカップをたたき付けた。
arieさん:「待って! おかしいわ」
arieさんがおかしく思ったのも当然である。
arieさんやerieriさんが身構えるほどの相手、つまりその世界のプロである。普通の人は、ティーカップをたたきつけられた音で、視線がそこに集中する。
プロなら、相手に気づかれたと考え 当然動きを起こす。
いまは、その音がまるで聞こえなかったような、そう わずか数人だけがそのじょうたいにも関わらず日常を演じていた。
erieriさん:「あたしたちじゃあ無いみたいね」
arieさん:「狙いは・・・・」
周りを見回し、探し始めた。
erieriさん:「いた!」
さっきまで、露天でスカーフを売っていた男が走り出した。
条件反射的に二人はその男のほうへ向かった。
“バン”
サイレンサーも何も付いていない 乾いた拳銃の音が建物の間をこだました。
arieさん:「あ〜ぁ!」
erieriさん:「間に合わなかったね」
数人の男たちはいっせいに彼の売っていた スカーフに集まり、そのスカーフを持てる限り集めて走り去った。
arieさん:「通りすがりのスカーフ強盗・・・にしては手際が良すぎるわね」
erieriさん:「寒い国の匂いがしたわね あたし、寒い国は苦手なのに」
arieさん:「もしかして、あいつら何探してたと思う?」
erieriさん:「確かに、面白い子ね」
arieさん:「でしょ〜、天然なのがいいのよ」
erieriさん:「で、逃げるんでしょ」
arieさん:「悪いことしてないのに、何で逃げなきゃ駄目なのよ」
erieriさん:「追うなら今よ、それに逃げるの慣れてるでしょ」
arieさん:「はいはい・・・」
arieさんも少しはなれた場所にコーヒーカップを投げて、その音に視線が集中した瞬間に 人ごみにまぎれた。

KAWAさん:「だ〜れだ」
大きなふさふさの毛むくじゃらの塊が顔を塞いだ。
勿論、待ち合わせをしているから分かっているのだが、それ以上に こんなふさふさを押し付けてくるのは 知り合いの中ではKAWAさんしか考えられなかった。
「お久しぶりです」
ゆっくり振り返った。
大きな、ディズニーランドで売っているミッキーの手のような手袋をしたKAWAさんが立っていた。
黄色いコートに大きな手袋 ふさふさのマフラーに 長い白いブーツ。色の付いた網タイツまで全てがコーディネートされた KAWAさんらしい服装だった。
僕は、いつも事務所にいるときと同じ服だったので 申し訳なく感じた。
「あの、KAWAさんこれ・・」
さっき買ったスカーフを見せた。
KAWAさん:「これっ・・・」
「ごめん、安物で なに買っていいか判らなかったから・・・ なんかプレゼントするから行こう!!」
KAWAさん:「こんな高価なものを貰えないよ」
KAWAさんがおかしなことを言う。
まじまじとスカーフを見つめるKAWAさんの目が、真剣な目だった