伊藤探偵事務所の混乱 6

すらりと手を伸ばしピンと伸びた指先に向かって店員がメジャーを当てる。
椅子に座って足を投げ出した体制で 足元には何着もの服が並べられている。
どこから持ってきたのかテーブルと椅子が用意され、僕にはコーヒーと雑誌新聞までが用意されていた。
違う世界があるものだ・・・・。もちろん、店に入った瞬間は 二人の姿を見て相手にもされなかった。
KAWAさん:「ちょっと、お買い物がしたいの。店長呼んでくださる?」
いかにも不似合いなファンキーな格好のKAWAさんが 最も不似合いな言葉を使った。
それも、最も偉そうな女性店員の前までわざわざ行って話した。
そして、不振そうな顔をする手人の前に 僕のカードを突きつけた。そして 僕のほうを向いて小さく手を振った。
小さくうなずいて答えた。
KAWAさんは、胸を張って 立っている。
女性店員は、そのカードの意味を理解したようだ。流石に高級ブティックの店員である。
こちらへどうぞと、奥の部屋に通された。
あまり使われてはいないようだが、質のいい内装のある高級そうな部屋だった。
スーツを着こなした年配の紳士が一人と 腕に針立ての付いた男が一人待っていた。
女性店員に、僕はテーブルまで案内され、KAWAさんは部屋の真ん中にぽつんと置かれた椅子に案内されて座った。
店長:「始めまして・・・   で、今日はどのような服をお探しで?」
長々とした挨拶の後に聞いた
KAWAさん:「そうね、このスカーフをプレゼントされたの それ用の服が欲しいんですけど あれば、靴もその他もここで揃えるけど」
店長:「勿論でございます、靴でも宝石でも お好みの物がございましたら ここでいまお揃えしますが」
それからは、KAWAさんの言葉も 店長の言葉もちんぷんかんぷん フランス語、イタリア語と英語の単語が飛び交っているのは 恐らくブランド名とか服の名前であろう。
KAWAさんの周りには 多くの女性がかしづき その女性たちを周りの男が指揮する形で次から 次へと服が積み上げられた。
一時間近い時間をかけて服を選び終えた。
KAWAさん:「じゃあ、髪をセットしてくるから 終わるまでに仕上げといてね。それと、彼の服を適当に見繕ってくださいね。」
店長:「では、お待ち申し上げております」
腰が90度に曲がろうかというぐらい曲げながら、背筋が殆ど曲がらない 立派なお辞儀で見送ってくれた。
KAWAさん:「いくわよ!!」
いつでも元気満点のKAWAさんだが、今日は何か違う意味で 元気一杯だった。
KAWAさん:「じつはね、あの店で 目の前にあるのに品切れって言われたことがあるの。すっごく悔しかったの。」
「で、あんなにしたんですね」
KAWAさん:「すっごく気持ちよかった!! でも、一杯買っちゃった ごめんね」
「いいですよ、無くなるまで使ったって そのつもりだったし あんまり金額が大きすぎると実感がわかないんですよ」
KAWAさん:「ふっしぎ〜 そういうもんなの? 欲しいものとか やりたいこととか」
「考える時間が無かったし、まだ 判らないんですよ正直」
KAWAさん:「じゃあ、今晩一緒に考えましょ」
KAWAさんは意味深な言葉を言った。
「それより、何か食べに行きます?」
KAWAさん:「カリスマ美容師の所へ行くの!!」
KAWAさんの意外な一面を見た、食欲を上回るものがあったんだ・・・・
良く見たら、手にはタイヤキが握られていて もぐもぐ しながら歩いていた。
やっぱりKAWAさんだった。
美容院〜美顔エステ〜ネイルサロン とコースをこなしているうちに 夕方になってしまった。
正直、髪をセットした段階で 頭だけが大きく写り やればやるほどバランスが悪くなっているような気がした。
最後に、ブティックに戻り服の着付けに入った。
勿論、着替えている姿を見れるわけでは無いので また、座ってお茶を飲んでいた。
昼過ぎから、お茶ばかり飲んでいてすでにおなかはたぷたぷだった。
お蔭様で、自分のお金ですが僕の服も新しくなった。
待ち時間が長いので 考える時間がたくさんあった。
何度みても、通帳にはゼロが6個にドルマーク それは間違えなかった。勿論、名前も間違えてなかった。
そして最後に改めてプレゼントしてくださいと渡されたスカーフ。
確かに気に入ったけど そんな金額のものとは思えない。
ただ、店の人も“良いものですので 丁寧に扱わせて頂きます“と言っていた。
僕たちの持っているお金からそう判断したのかどうかは謎である。
思いの他よい待遇に驚いている。
KAWAさん:「できたよ〜」
着飾ったKAWAさんが入ってきた。