伊藤探偵事務所の混乱 7

女性は変わるというのを目の前で体験した。
抜けるほど白い肌は、前からだったが 透き通った質感や大きく見える髪形も全てドレスに合わせたものだった。
肩から胸を通り抜けて腰まで流れるラインで生まれるやわらかい曲線。
重なり合う布地の重なりすらもデザインだと思わせるような綺麗な裁断。
左右対称でないデザインながらも あくまでもオーソドックス。
布地を切って肩から架けただけのシンプルなデザインながら 恐ろしいまでのこだわりで出来ている。
そして、何よりも KAWAさんがいつものボーイッシュとも思えるような活動的な姿や少女趣味としか思えない可愛い物へのこだわりが一切 そう 微塵も感じられない姿だった。
ただ、立っているだけなのに 彼女の周りだけがスポットライトでも当っているかのように輝いていた。
「KAWAさん、綺麗です」
こういうときに月並みな言葉しか出てこなかった。
KAWAさん:「もう少し待っていてね、まだ全部終わってないの」
KAWAさんの手が足元を指差した。
いつもの、紐が赤い長いブーツだった。
店長:「いかがですか?」
喋りながら店長はお盆のような箱をを持ってきた
「すごく綺麗です、びっくりしました」
店長:「ありがとうございます では・・・」
店長の持ってきた箱の中には スカーフが入っていた
店長:「プレゼントなさってください」
「はい」
多分、この演出も含めて服の代金に含まれてるんだろうなと思いながら スカーフを手にとってKAWAさんに持っていった。
少しかがんだKAWAさんの首にスカーフを二つに折ってかけた。
KAWAさん:「ありがとう、もばちゃん」
本当にスカーフを買って良かった。
しばらく存在すら忘れていたが、所長に感謝で拝みたいような気分だった。
後ろから、さっきの店員がやってきてスカーフを直している。
店長:「宝石はこちらで用意しておりますが、お買い上げになられますか?」
宝石の値段は判らないが、恐らくダイアモンドで出来たチョーカーとかである。
「あの、おいくらぐらいですか?」
店長:「その スカーフよりはお安いかと思いますよ」
笑いながら答えた。
やはり、こういうところでは値段を聞くのはタブーなんだろうな。簡単にかわされた。
KAWAさんの目が、宝石を見てウルウルしている。
いくら高いといっても、数百万だろう。既に金銭感覚はむちゃくちゃだった。
「じゃあ、それもお願いします」
KAWAさん:「ありがとう!」
抱きつきにきたKAWAさんを店の人が止めた。
店員:「動かないで!」
KAWAさん:「はぁい」
KAWAさんは しゅんとした。
僕も心の中でしゅんとした。
 
最後に支払いの段になって
店長:「ご請求はいかがいたしましょう? お客様の下にお伺いしましょうか?」
って、探偵事務所に来るつもりだろうか?
「いえ、カードで支払いできますか?」
店長:「それでよろしければ」
明細がきて・・・・・
ゼロが沢山並んでいた。
途中から見るのが嫌に成るような金額だった。
サインをして表に出た。
店長:「ご指定どおり、レストランをお取りしております」
表にまで、見送りに来た。
表に出ると、黒いリムジンが待機していた。
運転手:「どうぞ」
リムジンに案内してくれた
自然と、ぼくはKAWAさんの手を取っていた。
二人が乗り込んだリムジンは音も無く走りだした。
見えなくなるまで、店員が見送っていた。
あまりの事態に僕は 呆然としていた。
KAWAさん:「ごめんね もばちゃん 一杯お金遣わしちゃった」
「いいんですよ、100万円はみんなKAWAさんの食事に消えると思っていましたから」
KAWAさん:「ひっど〜い、あたしそんなに大ぐらいじゃないもの!!」
いつもと同じ怒った仕草だったが 今日はすごくかわいく見えた。