伊藤探偵事務所の混乱 12

朝になった。
いつものようになのか、最近だけなのか ソファーで毛布に包まって寝た。
いつからか、じぶんの家なんかで一人で寝る事に絶えられなくなっている。
昨日のような事があって 誰かが来たらどうしよう?って怖いからのような、自分の中で押さえられない感情が爆発しそうになるのか うまく表現できないがそういう気分になって眠りきれない。
事務所にいれば安心できる訳じゃないが、何故か おきっぱなしに成っている毛布の匂いが妙に安心できるだけである。
朝起きると、西下さんが眠っているのを見て少し安心して そのままシャワーを浴びに行く。
安心するのは、眠っていると 流石に人間だと実感するからかもしれない。
シャワーを浴びて表に朝御飯を食べに行く。
大きな声で、「いってきまーす」と声をかけると どこからか声が聞こえて朝御飯を頼まれる。
知らない間に現れてきている ぬりかべさんだったり、目を覚ました西下さんだったりする。
まれにarieさんが起きてくる事がある。
その時は、ご飯のついでの買い物ではなく 買い物のためだけに出かける事になる。
今日は、誰も声をかけない。
きっと西下さんは調べつかれて眠ったんだろう。
いつもの喫茶店に朝御飯を食べに行く。
よく行く途中で帰ってくる所長に会う。
所長は常に一人ではなく 両方に少なくとも二人の女性がついている。多いときは3人だったり4人だったり。
あちこちに付いた口紅の後が 生々しさを感じるが ただの酔っ払いで情けないことに女性に抱えられて帰っているのが本当のところである。
もちろん、その後仕事になるわけも無く、ただ安楽椅子に座って寝ているだけの仕事に入る。
殆どの仕事は、arieさんが受け付けて 僕が対応をする。西下さんとぬりかべさんが対照的な方法であるが調べて報告をする。
時々、椅子の向きを変える所長は、arieさんの足でコントロールされているだけだった。
表に出ても寂しいところなので いつもの喫茶店に。
いつ寝ているんだろう?という煩いおばさんの声が 最近朝には無くては成らない声になってきている。
時々、多い出したようにやってくるkilikoさんとばったり会うのだが 修行が足りないのか向こうから声をかけてくるまではkilikoさんとわからないので 本当に今だけ会ったのかどうかは解らない。
朝は殆どお客が無く、いつもの窓際の席に座り コーヒーの香りが出てくるのを待っている時間が気持ちよかった。
そういえば 昼も夜も一杯になるような店ではなかった。
少しだけ解るようになったのは、この店に来る人たちは少なからずお客さんである事が多い。
勿論、いいお客さんのこともあるが、良くないお客さんの事もある。
ただ、西下さんやarieさんが言うには 「結局良いお客さんになるからいいんじゃない?」といって 気の毒なお客さんも含めて笑い飛ばすだけだった。
泥棒に来ようが 襲って来ようが 追い返すどころか捕まえてふんだくるのだから・・・
今日は、本当に静かで お客は僕一人だけのようだ。
道の向こうからかけてくる女性の姿が見えた。
勿論、知っている人。KAWAさんだ!
「KAWAさ〜ん」
店の中から呼んで聞こえるかどうかは別として 声を出して手を大きく振ってみた。
KAWAさんは店の前を通り過ぎる直前、90度くるっと向きを変えてこちらに走ってきて かえるのようにぺたっと店のガラスに張り付いた。
KAWAさん:「おばよ〜う」
べったり張り付いているので、声が震えておかしなイトンネーションになっている。
KAWAさん:「きゃん!!」
おばちゃん:「そんなところで遊んでるんじゃないよ」
どうも、KAWAさんを後ろから箒で叩いたようだ。
お尻をさすりながらKAWAさんが入ってきた。
KAWAさん:「ねえ、お尻腫れてない?」
入ってくるなり、ドキッとするような事を聞かれた
顔は肩越しにこっちを向いているが お尻は座っている僕の高さで僕の目の前に突き出されていた。
冬なので長いパンツだったが、動きやすいものなので 体の線を綺麗に映していた。
「可愛いお尻ですよ おはようございます」
KAWAさん:「あっ、おはよう」
奥から出てきたおばさんの手には 僕のコーヒーと、いつの間にか作ったKAWAさんの朝食が乗っていた。
ワッフルのように見えるが、フレンチトーストのようにウエットな物であった。