伊藤探偵事務所の混乱 16

所長:「erieriさんの問題はさておき まず、依頼を受けるかどうかだが どう思う?」
西下さん:「経費がかかり過ぎるので商売としてはお勧めできませんが、私が所長なら・・・です」
KAWAさん:「報酬は十分にありますわよ」
arieさん:「もう無ければどうするの?」
KAWAさん:「そんな事はありませんが 私の私財からお払いしますわ」
arieさん:「お嬢ちゃんの小遣いでは足りないかもよ」
KAWAさん:「私には、お金持ちのパトロンがいますの」
arieさん:「意義無し」
西下さん:「意義無し」
erieriさん:「あたしも、意義無し」
僕はこっそり手を上げた。
そんな事よりも、KAWAさんの“パトロン”という言葉が気になっていた。
やっぱり、裏の世界に住む人はそういうつながりがあるのだろうか?
良くない想像と、KAWAさんの姿が頭に浮かんだ。
KAWAさん:「でも、一つだけ条件が・・」
所長:「どんな事でもお伺いしますよ お嬢様」
胸の前でもみ手をして返事をする。
冗談なのか、本当にお金に目がくらんだのかは解らない。
どちらにしてもあの態度が一番わからなかった。
KAWAさん:「担当は、モバちゃんにしてね!」
何を思ったか、KAWAさんは僕を指名して慌しく帰っていった。
明日には、僕を迎えに来るとの事。
皆も慌しく用意を始めた。
僕たちは、観光客に混じって北京から、arieさんたちは上海から陸路を上がって合流する事になった。
erieriさんは、待ち合わせ場所を聞いたら、そのままどこかへ消えてしまった。
また、眠れぬ夜の始まりだった。
 
翌朝は、朝早くから事務所の前に黒いハイヤーが着いた。
中から降りてきたのはKAWAさんだった。
それも、普段からは考えられない格好で。
最近では見ることの無くなった、ピンクのスーツに身を固めていた。
少し起毛された生地は、明るいピンク色。
縁取りは白。
ピンクは、帽子や靴までが同色にコーディネートされていた。
KAWAさん:「もばちゃーん、おむかえだよ〜」
表では、大きな声で叫んでいた。
arieさん:「保護者を、お呼びよ」
西下さん:「眠いんだから黙らせてきて」
しぶしぶ、表に出て行った。
「KAWAさんどうしたんですか?」
KAWAさん:「もー、もばちゃんったら まだお着替えもしてないんだから!! やっぱりあたしがいないと駄目ね」
「??」
なんだそれは? KAWAさんの言っていることの意味が解らなかった。
鞄を持ったKAWAさんは、鞄ごと僕を事務所の中に押し戻した。
「KAWAさん、何ですかそれは 新兵器ですか?」
KAWAさん:「似合う? 初々しさが出てない?」
「??」
余計に解らない。
KAWAさん:「怪しまれるから早く着て」
鞄から出したのは KAWAさんとよく似た生地の 水色のスーツだった。
「何ですかこれは?」
KAWAさん:「良いから早く!!」
あっという間に裸に向かれて、強制的に着替えさせられた。
arieさん:「西下くんサングラス貸して、どぎつすぎて見てられない」
あっという間に、ピンクと水色のスーツのカップルが出来上がった。
KAWAさん:「飛行機の時間があるから行くわよ!! お姉さまいってきまーす」
そう言うなり僕の手を取って飛び出した。
arieさん:「何あれ?」
西下さん:「理解不能
僕が車に乗ったとたん、KAWAさんは僕の腕を取り肩にまわし始めた。
そして、僕の胸に寄りかかってきた。
「KAWAさん、突然 そんな」
KAWAさん:「どう、これで新婚旅行に見えるでしょ」
小声で言った。
今時、こんなテレビのコントでもない限り出てこない格好のカップルだ。
やはり、いつもだが KAWAさんの感覚が何かずれてるような気がした。