伊藤探偵事務所の混乱 20

KAWAさん:「こんなところでお会いするなんて奇遇ですね」
KAWAさんの知っている人のようだった。
しかし、どこかで見た事のあるような気が・・・・
「あっ、erieriさんでしたっけ」
erieriさん:「あら、覚えてくれていたのね うれしい」
KAWAさん:「どうしてこんなところへ?」
erieriさん:「何故か、食べすぎちゃって!! 何でかしらね もばちゃん」
珍しく 明らかに敵意のあるKAWAさんに 油を注ぐような発言。
KAWAさん:「シェンさん、知らない間に趣味が悪くなったわね」
erieriさん:「どういう意味よ あっ、あんたね大ぐらい女は」
シェンさん:「まあまあ、これからずっと一緒 けんかしない いいね」
二人とも黙ってしまった。
KAWAさん:「シェンさん、この人誰か知っているの?」
シェンさん:「さー? 良くご存知でしたね フリーのエージェントって紹介されたんだけど」
KAWAさん:「スパイダーズって知ってる? タクラマカンの」
シェンさん:「勿論、謎の暗殺部隊でしょ」
KAWAさん:「この人よ」
シェンさん:「アイヤー、驚いたね」
erieriさん:「契約しちゃったし、貴方たちの命を取ったりはしないから安心して」
「スパイダーズって何ですか?」
シェンさん:「タクラマカンに突如現れた、暗殺集団って聞いています。数十人の部隊を明るい昼間に連絡もさせずに殲滅したって。 それもあちこちで。突然現れて 突然消えたので 幻の暗殺集団と呼ばれてます。」
erieriさん:「少し間違えているわ、部隊ではなく私の事よ。ついでに言うと実にかかる火の粉を振り払っていただけで 自分から仕掛けたわけじゃないわ。黒幕が死んだから降りかからなくなっただけ」
「じゃあ、あの糸が・・・」
KAWAさん:「残されていたのが、糸だけだったので蜘蛛って」
erieriさん:「あたしのどこが蜘蛛なのかしら 失礼ね」
KAWAさん:「性格じゃないの?」
シェンさん:「あまり怒らすのだめよ。この人強い」
にらみ合いながら、食事が続いた。
シェンさんは、がまの油のように二人の挙動にどきどきしていた。
僕は残念ながら、arieさんで十分に慣れていたので、中華料理の油の匂いを少しでも軽くできるようにジャスミンの香りのするお茶を おなかがはじけるまですすった。
 
KAWAさん:「もばちゃん、本当にあの女連れてゆくつもり?」
ホテルの部屋で、髪の毛を解きながらKAWAさんが聞いた。
「知らなかったんで、約束してしまいましたから」
KAWAさん:「あの人の仕事知っているでしょ」
「しつこい人だって、arieさんに聞きました。」
KAWAさん「それで?」
「こういっちゃなんですが、arieさんと対等に付き合えて arieさんにしつこいと言わせるぐらいに人ですよ。駄目って言ったって勝手についてくるでしょ」
KAWAさん:「だけど〜」
「勝手に動かれるよりはずっといいでしょ。安心して寝れて」
納得いかないまでも、KAWAさんは黙ってしまった。
KAWAさん:「先にお風呂入るね」
難しい顔をしながらKAWAさんはバスルームに行ってしまった。
しばらくすると、シャワーの音が消えて 風呂場の音が静かになった。
そして、風呂場からKAWAさんの歌う鼻歌がかすかに聞こえてきた。
あまりにもいろいろな事があって気が付かなかったが、KAWAさんと僕は新婚旅行で中国に来ている。
少なくとも今日までは。
ここは、4つ星クラスのホテル。それも、スイートルーム。
広いリビングと、驚くほど大きなベット。
眺めのいいバルコニーに、広いソファー。
何から何まで、一流の仕立てである。
そして何よりも、二人っきり・・・・
バスルームにはKAWAさん。
時間が立てば経つほど心臓の鼓動が大きくなってゆく。
KAWAさんの、鼻歌の声に引き込まれるように、なんとなくバスルームにひきつけられ、そして、こんなところにいたら誤解されると、すたすたとソファーに座り、又 バスルームの方に・・・
動物園の白熊のように、落ち着きの無い動きを繰り返した。
バスルームから、水が大きく流れる音がした。
かちゃかちゃ、なにか金属の当るような音がする。
そして、バスルーム中の扉の開く音。
タオルを体に巻いたKAWAさんが出てきた