伊藤探偵事務所の混乱 23

世界最大の建造物の一つ、万里の長城がピラミッドと同じように現在まで存在する理由が何であるか?
いま、ヨーロッパの持ち主を失った遺跡が長持ちしないのは 占領者が破壊するからだけではない。
要塞として作られたものの多くが、今で言うレンガのように加工された長方形の石の組み合わせでで出来ている。
それが強固な要塞となるのであるが、要塞としての使命を失った後には多くの遺跡が そうであるように 多くの人民のための 家を作るために役に立つ。
つまり、そのレンガをそのまま家を作る材料に使うのである。
ヨーロッパの港町に、同じ色に統一された街並みが美しいのであるが その一部はこのような理由で成り立っている。
国によっては、何度も創造と破壊を繰り返すために 地層のようなレンガの色の違う街並みが出来たりもする。
ピラミッドのように再利用不可能な石の塊の場合もある。
エジプトの気候から、密度の高い石では 熱の伝達が良すぎて家の中が日中はオーブンになり 夜間は冷蔵庫になるのが避けられなかったからである。
日向で焼いた日干し煉瓦のほうが実用的であった。
で、万里の長城であるが、明らかに何度も王朝が変わり その度に過去の王朝の遺産として代々引き継いできた。
事によっては、補修すらして。
万里の長城は、今 少し昔前までは現役だったからである。
モンゴル人の王朝が支配して尚、必要だった要塞。
モンゴルの北側にも人が住んでいる。
それも、謎の多い言葉を使う人々が。
ロシア王朝が逃げ、ダライラマが隠れ、そして 何人もの王朝から脱出した英雄が再起を果たした地がそこにはあった。
決してそこは地の果てではなく、実は物質も情報もふんだんに手に入れることの出来た人々の集団だった。
そこには、過去から世界中に人々を送り出した集団の本部がある。
華僑を輩出した民族が
世界で、その民族の名を国の名前以外に持つ民族は 二つ。
一つはユダヤ人、もう一つは華僑である。
双方ともに、商売に精通し世界の富の多くを支配している。
彼らが、人並み以上に勤勉で儲かったわけではなく、彼らの最大の武器はそのネットワークが持つ情報だった。
商品を必要としている人を見つけること、商品を売りたい人がいること。
双方が情報であり、その間に立つものは 情報さえ握っていればその関係を繋ぐだけで利益を上げることが出来たのである。
遠くへ行けば行くほど その差が大きくなり利益も大きくなっていった。
そして、お金を基準とした人々の結びつきは強くなっていった。
早くからヨーロッパ、アメリカ人の中で活躍したユダヤ人に対して、目立たないが世界中のどこにいても見つかる中華街と中国料理が彼らの生きた証である。
その彼らの中でも、その結束力が強くその中枢にいた人たちがいた。
それが“客家”の人たちである。
いまでも、中国の奥地に済み、特異な円形の家に集団で住む。
取材に行った記者たちが、コンピューターや通信機器の量に驚く。
それが、彼らの力である以上当たり前である。
その、彼らの住む地が 万里の長城の外にあたる場所である。

KAWAさん:「おはよう もばちゃん」
朝日が、窓から差し込んでくる。
日の光を背にして立っているからか、KAWAさんがまぶしいからかその姿を見ることが出来ない。
ベッドの中には、まだ彼女のいた空間を上から掛けた毛布が覚えていた。
肌には、シーツの糊の感触が気持ちよかった。
「おはようございます」
かなり遅れた返事をした。
僕の言葉を待たずに、KAWAさんはシャワーを浴びにバスルームに向かっていた。
なんとなく、気恥ずかしくてベットから出られなかった。
KAWAさん:「もばちゃん、一緒に入る?」
なんとなく、頭の中に記憶がフラッシュバックしてきて・・・
「あっ、後で入ります」
KAWAさん:「そう、背中を流したげるのに」
くすくす笑いながらKAWAさんがバスルームに入っていった。
頭が徐々にはっきりしてゆく。
手近なシーツを体に巻きつけて、ベットから出た。
ソファーに掛けた、青いバスローブに気が付いて 慌てて着替えた。
慌てる必要は無かったが、なんとなく気持ちが落ち着かなかったからである。
ソファーにはもう一枚、ピンクのバスローブが在った。
見ただけで、顔が赤くなった。