伊藤探偵事務所の混乱 28

erieriさん:「同じ砂漠でも、アジアの砂漠はいやあねぇ。じめじめしてる」
岩肌は冷ややかで、体の芯まで冷やすようだった。
3人とも当たり前のように、自分で縄をといて座っていた。
僕は一人無様に岩肌に転がっていた。
「もごもご」
喋ると、口がふさがれていて声が出なかった。
erieriさん:「あらいやぁね〜、モスラの幼虫かしら」
KAWAさん:「冗談言ってないで助けなさいよ! 大丈夫、もばちゃん?」
「はいなんとか」
KAWAさん以外は、誰も手も貸してくれないどころかこちらの方も見なかった。
この人たちにとってはあまりに当たり前で、手助けする必要もない事なのであろう。
ようやく、手足が自由になった頃には、もう鉄格子は開けられ二人は鉄格子の外に出ていた。
部屋というのか、くぼみの傍にいた二人の男は 息をする暇も無いまま倒されていた。
「こんな事ができるなら何で わざわさ捕まったんですか?」
erieriさん:「マスターが言ったからよ」
「3つの選択って」
シェンさん:「彼女は皆殺しができる、全員倒すぐらい訳ない」
「そうですね」
シェンさん:「貴方の奥さんだって、簡単でしょう」
KAWAさん:「でも、結果オーライかもよ」
erieriさん:「そうなる事を祈っているわ」
KAWAさん:「シェンさん、取り合えずお願いね」
シェンさん:「私、体弱いよ。こき使うと化けて出るよ」
ぶつぶつ言いながら、表に出て行った。
表に出たとたん、サイレンが鳴り響いて人が慌しく動く音がした。
シェンさんは、右手をまっすぐ手のひらを上に向けながら伸ばした。
そして体は相手に向かって半身に構え、腰を低く下げ 足を地面にめり込ますかのように踏みしめた。
ゆっくり、右手の肘を曲げて 手のひらを顔の前まで持ってきた。
左手は、体の後ろに伸ばしている。
相手は、勿論全員だと思われる人数が銃を構えていた。
誰からか、引き金を絞り銃を撃った。
その音に 呼ばれるかのように他の銃からも音がした。
体を 180度入れ替えた瞬間に 一気に数メートル相手までの距離を詰めた。
あちこちに兆弾が飛び交った。
KAWAさん:「危ない!!」
僕を突き飛ばすかのようにKAWAさんが倒れこんだ。
KAWAさんに上から乗られているので 見えなかったが あちこちで壁に当った乾いた音が飛び交った。
erieriさん:「もう少し静かに片付けられないのかしら」
“ぐあっ”
目線が外れたので、どうやったのかは解らないが、数人の男達が1mぐらいの高さまで飛ばされていた。
“だんっ”
シェンさんが、足を踏み変えると地面が揺れるような音がする。
あの、やせた体からは想像できない踏み出し音が聞こえる。
そして、その音の直後には人が飛び上がる。
あまりにも近すぎて、銃を撃てない男達は銃で殴りかかってくる。
突き出された銃のグリップを手の甲で跳ね上げる。
開いたわき腹に 肘が突き刺さる。
突き刺さった肘に、力を加えると 何かが爆発するように肘に当っている部分が弾き飛ばされる。
体を、90度捻って 相手に背を向け後ろに倒れこむように手を地面につけた。
片手で体を支え、その手を軸に 鉞のように足を振り下ろした。
相手の方に足が触れたとたん、骨の砕ける音がした。
そこで一瞬止まったものの、蹴られた男の膝が崩れ、そのまま1mぐらい足は蹴りおろされた。
蹴られた男の顔を、反対の足で蹴り飛ばし体の向きを買えて また、最初のしゃがんでてを伸ばした構えを取った。
半数の男達は、下がって距離を取ろうとした。
いや、無意識に体が下がっていったのだと思う。
その瞬間を見流さないように、シェンさんは同じスピードで男達に迫る。
足を着いて、追い抜いて足を掛けて下がる男の肩に手を乗せて押し倒した。
一気に体勢の崩れたところで、手のひらを顔に持ち替えて一気に地面に向かって 重力の力を借りて一気に叩きつけた。
結果は、落ちる瞬間に目を背けてしまったから、見ることは出来なかったが 想像する事が難しい情景ではなかった。
ゆっくり体を持ち上げるシェンさんの顔は、いつもと変わらず笑顔だった。
男達は、皆、動きを止めていた。銃を構えるのも忘れて。