伊藤探偵事務所の混乱 29

改めて構えなおして、大きく息を吐いた。
周りを囲んでいた男達が、じりじりと後ろに下がっている。
シェンさん:「私の出番が終わります。後は誰が?」
erieriさん:「あたしは疲れるから嫌だわ」
と言いながら、つかつかと前に出た。
erieriさん:「そろそろ、出てきたら? 貴方の部下達は働きたくないみたいよ」
KAWAさん:「このまま逃げるってのもありだけど」
erieriさん:「あたしご招待されるのは好きだけど、逃げるのはだいっ嫌いなの」
シェンさん:「私も働きすぎなので、ここら辺で休憩を」
銃を構えた人たちに囲まれながら、地面に座り込んでタバコを吸い始めた。
奥から声が聞こえた。中性的な声で男か女かも区別がつかない。
反響して聞こえる声からは居場所すら掴ませない。
「しょうがないですね、後でみんな鍛えなおさなきゃいけませんね」
踵を鳴らす音をさせながら長身を折り曲げて入り口から入ってきた。
シェンさん:「ほら出た」
シェンさんを囲んでいる男たちがざわめいた。そして銃を握りなおした。
シェンさん:「動けなくなったから後は頼んだ」
両手を大きく上げて降参の姿勢をしながら、そのまま 床に寝そべった。
KAWAさん:「じゃあ、あたしが」
erieriさん:「オムツの取れてないお嬢ちゃんはひっこんいでたほうが良いわよ」
KAWAさん:「いい加減にしないと、黙らせるわよ」
erieriさん:「おー怖い怖い。でも、そこを離れて良いの?」
erieriさんがあごで指した先には僕がいた。
KAWAさんがerieriさんを睨み付けた。
そして、手を後ろに振ったとたん、後ろから人が倒れる音。
ここにも敵が来ているんだ。
KAWAさんは僕を守るために動けなかったようだ。
erieriさん:「そっちの偽者のお嬢ちゃんもいらっしゃい」
ようやく。こちらから見えるところに来た。
長い髪が腰を超えて垂れている。
綺麗なストレートなので、日本人の僕からは黒髪だったら良いのに と思うような髪だったが、ピンク色や紫の毛糸のようなものが編みこまれ 薄いオレンジ色に髪は染め抜かれていた。
普段のKAWAさんのようなPOPな色の服装だが、高すぎる背がその格好に違和感を覚えさせる。
すらりとした長身を強調するように、優雅に腰から下だけを緩やかに動かしていたのに、erieriさんの言葉に強烈に反応し 足を蟹股にし だみ声で怒鳴った。
「誰が偽もんなんだ!!」
明らかに男の声だった。
erieriさん:「ほらぼろが出た」
謎の男:「うるさいわね、あんたのような性格男じゃないわよ」
シェンさん:「なるほど、盗賊のおかまですか お陰で正体が解りましたね」
erieriさん:「なんだ、まだ解ってなかったの」
シェンさん:「KAWAさん、どうも草原のの主達に捕まったようですね」
謎の男:「おかまって誰の事よ!! 貴方達、生きて返さないわよ」
腰から引き抜いた剣は しなって真っ直ぐにすら成らないどちらかというと 銀色の鞭のようなものだった。
謎の男:「殺さず捉えてつれて来いって事だったけど、そういう訳にはいか無さそうね」
剣を振り下ろしたて、途中で大きく腕を伸ばし 蛇が獲物を捕まえる時のように erieriさんに向かって剣先が空を走る。
erieriさんが手を振ると、空中で剣の切っ先が反れてerieriさんは動かずに剣をそらした。
しかし、完全にそれる前に、男は腕を上下に振った。
その後、剣を引いた。
謎の男:「あら、面白いものを使うのね。その糸と一緒に切り刻んであげる」
erieriさん:「さあね、できればどうぞ」
同じように剣を振り下ろして突いたが、二度目は突いている最中に反対の手で剣に振動を与える。
erieriさん:「単細胞だけど、脳みそぐらい付いてるんだ」
謎の男:「いちいちうるさい」
シェンさん:「おかま言葉忘れてるね」
言葉の戦いが続く中、男の剣が空中で止まった。
erieriさん:「で、次は?」
謎の男:「次は・・・」
男がもう一本、腰の辺りから取り出して 同じように切りかかる。
剣の先を捕まえている糸を切断しながら、剣はerieriさんに向かってまっしぐら。
謎の男:「・・・止められない」
erieriさんはそのまま動かない。いや、動けないのかも知れない。
「erieriさん!!」
無意識にそちらに手を伸ばしたが、届くはずも無かった。