伊藤探偵事務所の混乱 29

erieriさん:「あくびが出るわよ」
状況を理解しているとは思えない言葉。
謎の男:「死ね!」
腕の振りに合わせて切っ先が伸びている。
もう少しでerieriさんの胸に刺さる。
刺さったと思った瞬間、男の腕がそれ以上伸びなくなった。
腕が伸びなくなると、
そこで刀は重力に負けて地面に落ちた。
巻きついていた糸は、剣ではなく腕の自由を奪っていた。
謎の男「ちっ」
急いで腕を引いた瞬間に、血が飛び散った。
腕に巻きついている見えない糸が、引き戻した腕を締め付けて そのまま切り裂いた。
男も、ただの盗賊ではなかったので、そこで腕を止めて動かなくなった。
erieriさん:「良かったね、お手手がついたままで」
シェンさん:「ゲームセット 誰かまだやりますか?」
シェンさんを囲んでいた男たちが、銃を投げ出して逃げていった。
「大丈夫ですか、erieriさん、シェンさん」
全てが終わって、僕が駆け寄った。
erieriさん:「バカッ!」
謎の男は動かない上半身ではなく、下半身、足を振り上げて 足の先から3本目の剣を伸ばしてerieriさんより近い僕に向けて切りつけた。
目の前に赤いものが広がった。
KAWAさんが投げたKAWAさんの首に巻いていた、赤い長いマフラーだった。
しかし、剣は簡単にマフラーを突き破って何事も無かったかのように伸びてきた。
そして、KAWAさんは僕を庇うように背中を剣に向けて立ちふさがった。
“ちゃりん”、“ちゃりん”
ガラスが割れたような音がした。
「KAWAさん、大丈夫ですか」
慌てて、KAWAさんの背中のほうに回りこんだ。
そこには、細長い剣の突き刺さった後は無かった。
erieriさん:「へー、風使いって訳ね」
KAWAさんの背中の後ろには細かく砕けたさっきの剣の残骸が落ちていた。
KAWAさん:「いったーい」
上から羽織っていた、ダウンの上着を勢い良く跳ね上げた。
白いお尻が見えた。
erieriさん:「あら、可愛いお尻」
スリムな白いパンツ越しに、KAWAさんの白い服の背中に血がにじんでいた。
KAWAさん:「モバちゃん痛いよ〜」
背中のシャツを、血のにじんだところからゆっくりめくった。
白い肌が目に飛び込んだ。
そんな場合じゃない。血の出ている部分を良く見ると 銀色の破片が見えていた。
とにかく破片を取らないと・・・・
他に思いつかなかったので、そのまま口をつけて破片を吸い出した。
KAWAさん:「あん」
破片は、予想に反して簡単に取れた。
気が動転していてわからなかったが、僅か1cm少々の小さなものだった。
「あれっ?」
実は、たいした破片でもないし たいした傷でもなかった。
慌てているのは僕だけだった。
服に付いている血も、10cmぐらいの直径の にじんでいる程度のものだった。
気が付くと、KAWAさんの上着をめくってそこに顔を突っ込み 両手でお尻を抱えて背中にキスしている。
あきれた顔で、erieriさんとシェンさんが見ている。
KAWAさん:「もばちゃん、いったいの。ちゃんと舐めて消毒して?」
唇が、まだ背中についたままだった僕は、急いで顔を離した。
KAWAさん:「やん」
謎の男:「腕の糸を解いてくれないか?」
えりえりさん:「おいたしないって約束するならね」
謎の男:「きっとあれよりましな事しかしないと思うぜ」
両手が動かないので、目線を僕のほうに向けた。
シェンさん:「あれは、例外ね」
erieriさん:「腕を解いたらどうするの?」
謎の男:「そりゃー、命令通り あなた方を丁重にお連れするだけさ」
erieriさん:「どこに招待してくれるのかしら?」
謎の男:「貴方達の目的地とだけ、聞かされてるんだが それ以上は知らない」
erieriさん:「おねーさんは、嘘つきな子は嫌いなんだけどな」
KAWAさん:「ねえねえ、もばちゃん」
erieriさん:「いいかげんにしなさい!」
erieriさんは、怒鳴った。その瞬間に腕が動いた。
謎の男の腕から血が滴って、糸に伝って流れた。