伊藤探偵事務所の混乱 30

謎の男:「うわー」
男は声を上げた、緊張感が解けたところを一気に痛めつけられて我慢が出来なかったんだろう。
erieriさん:「あら、ごめんなさい。で、なんで私達を襲ったの?」
謎の男:「いってーなー、だから連れて行くように言われただけで 襲ったりしてないじゃないですか」
erieriさん:「うちのマスターの顔見るまでだったら信じたげたけどね」
僕の顔を見ながら、erieriさんが言った。
erieriさん:「もう一度だけサービスで聞いたげる」
謎の男:「だから本当だって言っているでしょ」
語尾が叫んだような口調になるのは、erieriさんが糸を引き締めたからである。
謎の男:「あんた達だって解るだろ、俺達は北京からあんた達を追ってきたんだぜ、いまのあいつらを見てなぐらねえ男はいねえって」
ようやく体を起こしたKAWAさんを支える僕に視線が集中した。
シェンさん:「中国人には刺激が強いね 同情するよ」
erieriさん:「あたしも・・・」
肩を落としerieriさんが返事をした
腕を伸ばし、軽く上下に振ると 謎の男は地面に崩れ落ちた。
erieriさん:「信じたげるわ、あたしも同じ気分になったから」
右手を軽く払ったerieriさん。
急に後ろに大きく跳び下がったKAWAさん。あっけに取られる僕。
瞬間的に、僕の両手は天に向かって伸びていた。
erieriさん:「いったでしょ、いい加減にしなさいって」
KAWAさん:「せっかく楽しく遊んでたのに」
erieriさん:「お嬢ちゃん、緊張感って言葉知っている?」
KAWAさん:「あら、緊張する相手だとは思わなかったんだけど?」
謎の男:「そんな・・・」
erieriさん:「じゃあ、今度は丁重に招待してくれるのね」
謎の男:「はい、仰せのままに」
袖を下ろし、両腕の傷を隠し 足を揃えて立って うやうやしくお辞儀をした。
KAWAさん:「じゃあ、まずご飯!!」
謎の男:「今からご準備しますので、少々お時間をいただけますか?」
KAWAさん:「おっけー」
シェンさん:「長くなりそうですね」
erieriさん:「わたし、ゆっくり寝てるから起こして 部屋に案内して、鉄格子の無いやつね」
謎の男:「おいっ」
若い女性がやってきてerieriさんを案内した。
シェンさん:「じゃあ、私も失礼して」
一緒にシェンさんも案内されて行った。
謎の男:「貴方にも試して良いですか?」
KAWAさん:「無理よ」
剣を抜いた。
振り上げた腕を下ろす前に、KAWAさんの投げたナイフが 腕を袖ごと突き抜いた。
振り下ろすはずだった剣を動かない腕が迷わせた。
垂直に上がった位置から、そのまま落下してきた。
僕は、その謎の男に体当たりした。
僕が通り抜けた後には、鞭のようにしなる剣の先が地面に刺さり、空から続いて落ちてきている姿だった。
KAWAさん:「まばちゃん、無茶しちゃ駄目」
僕の方までやってきて、腕を引いて立ち上がらせた。
KAWAさん:「解っているわね、今突き飛ばされなければどうなっていたかは」
謎の男:「これで、安心して全員招待できます。もちろん、その男性も」
KAWAさん:「そう、そんな事より ご飯はまだ? 切り刻んで食べちゃうわよ」
謎の男:「はいっ!すぐに」
謎の男は嬉しそうに走っていった。
KAWAさん:「モバちゃん、いつも結果オーライとは限らないんだから無茶しちゃ駄目よ」
「体が勝手に動くので止まらないみたいです」
KAWAさん:「それじゃあ、しょうがないね」
あきらめたようで、少し嬉しそうなKAWAさん。
KAWAさん:「さあ、顔を出しで!」
鞄から何か出しながらKAWAさんが言った。
「何ですか?」
手際よく、小さな袋から綿とピンセットを取り出している。
KAWAさん:「傷の手当てよ」
KAWAさんに顔を近づけた
「いてっ」
KAWAさんの付けるくすりは、顔に染みた。
「痛いですって、KAWAさん」
一難去って・・・・