伊藤探偵事務所の混乱 63

流れる雲は、相手のいるべき場所に対して大きく右に流れて着弾した。
それが、正しかったかどうかは解らないが、ぬりかべさんの表情からうまくいった事は確認できた。
西下さん:「着弾確認!」
大きく崩れた崖が、恐らくそこにいた気の毒な人たちを押しつぶしたようだ。
ぬりかべさんの表情がそれを物語っていた・
「KAWAさんは?」
西下さん:「大丈夫です。今のところは」
「今のところは?」
西下さん:「わざとやってる人の事は止められません」
「それを止めてください!」
所長:「このまま山を下って、左に5度」
「所長・・・・有難うございます」
シェンさんの顔からは余裕が消えていた。
右に左に車体を振るのは、既に敵に発見されている事は確かだったからどこから狙われているから解らなかったからである。
所長:「次は?」
所長が、いつもの不真面目な体勢からめんどくさそうにこちらにかをを向けて聞いた
もちろん、この先が見えているわけも無くどうしていいかは解らなかった。
「このまま、後を追ってください!」
シェンさん:「追えればね」
「追うんです!」
4駆の車なので、すべる前輪は砂を舞い上げた。
目の前数百メートルで、迫撃砲の攻撃を避けるKAWAさん。
追うこちらも、その迫撃砲の後を避けて進まねばならない手前、徐々に遅れが進んでいった。
「ぬりかべさん!」
いつの間にか、新しいランチャー変えていたぬりかべさんはこちらの言葉を終わるのを待たずにKAWAさんを攻撃している部隊に向かって白い軌跡を走らせた。
いくつかの追撃ミサイルの攻撃を避け、岩山の中間地に窪みを作った。
大きく弧を描いて、ジャンプしたKAWAさんとそのバイク、それと寄り添うように違うバイク。
所長:「相手も結構必死ですね?」
KAWAさんの斜め後ろを寄り添うように走るバイク一台。
違う崖からもう一台が近づいてくる。同じ形式の物の様で同じ組織のものと思われる。
「ぬりかべさん!」
ぬりかべさん:「だめだよ、近すぎで攻撃できない!」
所長:「行くしかないね」
斜め右後ろに、付かれているためにKAWAさんは左へ、左へとコースを抑えられている。
西下さん:「まずいな」
「何か先にあるんですか?」
西下さん:「何が在るか解らないからまずい」
所長:「きりが無いな、しょうがないからarie君を呼ぶか」
西下さん:「了解、連絡します!」
「着くまで間に合います?」
所長:「解らないな、arie君たちが敵を引き付けている間に進むつもりだったがあてが外れたな」
西下さん:「裏目に出ましたね、思ったより相手が多かったみたいですね」
「そうだ、このまま落ちましょう」
シェンさん「??」
「シェンさん、このまま崖を落ちましょう。」
所長:「おいっ、待て」
珍しく慌てる所長
「arieさんが、この間 崖を降りたんです そう、ちょうどこんな感じの崖を。きっとシェンさんなら出来ますよ」
シェンさんは急ブレーキをかけてそこに止まった。
がけ下を覗き込んで、考えている。
所長:「あの時は・・・」
「ここを降りないと間に合わないんです!! お願いします、シェンさん」
息を呑んで、シェンさんは車を崖に発進させた。
所長:「馬鹿!あの時は雪山だったろうが・・・・」
流石に所長も座りなおして、ドアを掴んで衝撃に備える。
ぬりかべさんが、僕の腰に手を回した
ぬりかべさん「落ちるなよ」
シェンさん:「所長さん、そういうことは早く言うね!」
所長:「ばかやろ〜」
皆めいめいに、色んなことを叫んでいる。
あまりの降下速度に、言葉は後ろにおいていかれて会話は成立しなかった。
ただ、所長の“ばかやろ〜“は谷に木霊して聞こえてきた。
あまりの状況に、僕の頭は思考を失っていた。