伊藤探偵事務所の混乱 68

シェンさんが乗って所長が乗って、車が走り出した。
勿論、arieさんたちバイクとは違い、既に満身創痍の車である 速度も出なければ決して上品にも走れない。
大きく車体を揺らしながら バイクたちとは違った方向に走っていった。
僕は、腕に冷たい感触を感じた。
腕には、手錠がされていた。
腕はarieさんの腰に回して、手錠で止められた。
「arieさん、これは?」
恐らく前には声が通ってないだろうが、一応叫んだ
返事は無かったが、ハンドルを大きく右に切ってバイクが倒れた瞬間に解った。
腕の力で支えられないときに落ちないようにだ。
だが、それ故に腕は千切れそうに痛かった。
前で、arieさんが笑ったように思えた。
arieさんは早く、それに少し遅れるようにerieriさんが着いている。
時々、ギリギリまで追いついて離れてゆく。
そのたびに、何か叫んでいるのは聞こえるが 何を言ってるかまでは解らなかった。
だが、想像はついた。
ぬりかべさんが乗っていて、重いから追いつかないとか、卑怯だと言うような事を言ってるのではないだろうかと思うし、多分間違えてないだろう。
後輪が、グリップを失って大きく流れる事は当たり前、それでも前に前にとバイクを押し出してゆく神業のような運転だった。
だが、怒鳴ったり怒ったりしながらも erieriさんは後を着いてきた。
車やバイクで迫ってくる人たちはいるが、こちらとの速度差がありすぎるためにこちらをとらえ切れずにいた。
時々飛んでくる弾が、こちらを捕らえる事があるぐらいだ。
ただ、流石に慣れているのか(どうやったら慣れるんだろう?)車体を倒して、直撃は無かった。
時折、ぬりかべさんの撃つ弾が前で炸裂してみちを作ってゆく。
写真で見た洞窟が前に見えた。
そして、地下に続くと思われる穴も
「arieさん、あそこ!」
聞こえたのか聞こえてないのか、arieさんは頷いた。
後ろのほうでも、戦闘が行われている。
車は、本来の性能を失っていて、あちこちに蛇行してようやく弾を避けているような状態であった。
しかし、シェンさんだと思うが流石の運転である。
逃げ帰る事も容易では無さそうだ。
ただ、所長とシェンさんが乗っていると思うだけで不謹慎だけどコミカルに見えてしまう。
岩山に近づけば近づくほど、空からの攻撃は来ない。
離れれば離れるほどその逆のことが起きる。
所長たちは空を担当した形になっている。
何箇所か足場の悪いところを抜けて、攻撃が激しくなってきたので岩場に逃れる。
しかし、ここのように入り組んだ構造でないために空からの攻撃がやまない。
岩山に隠れてしまってこちらから見えなくなり、大きな炎が上がって攻撃が止んだ。
流石の僕にも、解る状況だった。
arieさん、首を右左に振って訴えようとしたけど解ってもらえなかった。
腕は手錠で止められていたので動かなかった。
聞こえない事を承知で、ぬりかべさんにも叫んだ。
こちらの叫びが届いたのか、僕がわかったぐらいのことだからぬりかべさんは承知していたのか届かないまでも、ランチャーを構えた。
しかし、不安定なバイクでは撃つことが出来なくて止めた
しかし、こちらも余裕のある状態ではなかった。
既に、500mぐらいに穴が近づいていた。
故意にか、故意でないのかerieriさんに追いつかれた。
二人は、さっきまでの怒鳴りあう表情ではなく、お互いに顔を見合わせなにか、目で喋っているようだった。
二人は右と左に分かれ、両サイドから穴に向かって直進した。
示し合わしたかのように、同じタイミングで突入する。
狭い入り口が奪い合いになり、そのまま二人の走るラインが交差して洞窟の狭い入り口でループを描くように周り お互いどちらも譲らない性格だから本当に譲らず。
「わー、ぶつかる」
ぶつかろうとしていたのは、洞窟の壁であり 相手のバイクであり そして横向きに壁に向かって走っているバイクが重力に負けたときに向かってくる地面である。
そして、バイクの速度、どんなに遅く見積もっても20kや30kじゃあない。
当たれば痛いで済めばいいが・・・
って、これまでの経験のお陰で、髄分余裕が出てきたのか それとも開き直ったのか 叫ぶだけで済んでいる。
衝突の衝撃がどこから来たのか解らない。
前からのような横からのような、何より地球の重力の方向が下でなかったためその事を理解するのは難しかった