伊藤探偵事務所の爆発24

見詰め合う瞳と瞳。
それは、言葉で書くとよい物であるが、男同士ではうれしくない。
ましてや、相手はサングラスで目を隠しているし、マッチョでもないし(と言っているからと言ってそういう趣味は無い。)いい男かどうかもわからない。
相手が喋らない物だから、こちらだけ喋っていると馬鹿に見える。
馬鹿に見えるのは油断してくれて助かるのだが、それはそれで腹が立つ。
かといって、目線を外すのも負けたようで嫌だ。
こちらはサングラスを掛けてない分不利だが、なんとか・・・
結構、馬鹿なことを考えながら事態の変化を待つ。
“がちゃ“
いつもの女性が、お盆に食事を載せてやってきた。
そうでなければいけない。部屋の中に男と二人きりなんて耐えれるもんじゃない。
王子:「待ってました」
一応、うやうやしく頭を下げる女性。
僕が、その待ち構えた感情を体で表現したために 肩が振るえて笑いを堪えているようだ。
テーブルの上に、食事を置いて出て行こうとしたときに声を掛けた。
王子:「待って!」
女性の手を取って引き止める。
その引き止めた腕を、男が掴んだ。
さすがに、その反応は早く 僕の感覚では同時にしか感じられなかった。
王子:「違う、話を聞いてくれ」
女性を掴んでいた腕を放した。しかし 男はその腕を放すことは無かった。
そして、女性はどうしていいのかその場に留まったままでいる。
これは、女性に言っても無駄だと感じた僕は男に説明を始めた。
王子:「見てくれこれを」
今日、購入してくれた本の中を出して見せた。
「偶然の数学」という本で、偶然で起きた事象を数学的見地から発生する可能性と理由を突き詰めてゆく本である。
男が首を振って、女性を帰そうとする。
王子:「だから待ってくれって、不良品だから交換してきて欲しいんだ」
疑わしそうに見る男。こういったことはサングラス越しにもわかる。
王子:「ほら見てみろ、このP128〜の数式、xが定義されているにも拘らず、この次のページではxが未知数に成っている。 つまり、ここでは二つの式の結果を対比して述べるところだから 一つ目の式と二つ目の式が混ざり合っていると思う。だから、この証明の内容がおかしくなっている。」
自慢じゃないが、数学だけは得意なんだ。
だが、数式の間違いを解ってもらうのは難しい。
こちらの喋っていることに合わせて、指を通式の上に滑らせて見ているのだが男はなかなか理解できないようだ。
王子:「数学は苦手なようだな」
男:「うるさい」
どうも、真面目に考えているようだ。
女:「わかりました、この本ページ数が飛んでます」
喋った後で、口を両手で押さえた。まるで、ふーせんウサギのように。
どうも、やはり 喋らないように言われていたようだ。
王子:「そうとも言うな」
せっかく、詳しく説明したのが無駄になって少し悔しかったが こちらの言うことは伝わったらしい。
男も悔しかったのか、ページの隅の小さなページ番号を目を近づけて確認した。
サングラスをしているので、小さな文字は見えにくいのであろう。
僕は、本のほうに向かって手を動かし指差した。
実際は、指差す振りをして男の首に狙いを付けた。
男の首から、鮮血が飛び出した。
男は、お辞儀をするようなポーズで屈んでいるので、力いっぱい背中に向けて肘打ちを出した。
首の動脈を切っても、数秒は動ける。脳の血が流れ出るまで。その間にやられないとも限らないからである。
何らかの、対応方法を取ろうと体を動かしたが、既に血の枯れ始めた男の体は十分にそれに追従せず 地面に崩れた。
「高かったのに」
ガラスの割れた腕時計を見ながら呟いた。
昨日、あちこちに当り散らした時に割っておいた物だった。
小さなガラスだったが、血管を切り裂くのには十分だった。
数秒の時間を置いて、女性が叫び声を上げた。
女性「きゃぁー!」
いくら、可愛い女性でも叫び声までは可愛くないようだ、耳が壊れるかと思った。
叫び声を聞いて飛び込んでくる男たち。恐らくカメラで見ていたが、叫び声で正気に戻って飛び込んできたのであろう。
とりあえず、この女性の後ろから首を絞めながら叫んだ
王子:「動くな!!」
言った所で、言うことを聞くはずも無い。
さっき、破り取った本で作った筒から、時計の針を吹き、一人の男に命中させた。
も一度言った。
王子:「Freez!!」
ようやく、こちらに対峙したまま動きを止めた。
目の前には、頑丈そうな男が二人。予想通りである。
あと、何人出てくるか・・・・