伊藤探偵事務所の爆発 31

“りりりり”電話が鳴った。
電話で目が覚めた。
記憶はしっかりしているつもりだが、昨日は一人で気合を入れて飲んだところまでがしっかりしていて、記憶を辿れないわけではなく 辿りたくなくて思い出さないが正しい姿のようだ。
「はい、2805室です」
arieさん:「そこに、伊藤探偵事務所勤務の真面目な社員はいませんか?」
arieさんの声一つで目が覚めた。
「あっ、はい」
arieさん:「早く変わってくんない? こっちも忙しいのよ!」
「arieさん、勘弁してくださいよ・・・」
寝ぼけた頭を力いっぱいたたき起こして返事をした。
気が付いたら、ベッドのそばのテーブルにはコーヒーが置いてあり起きてないのは僕だけのようだ。
arieさん:「私は怒ってるのよ!」
「何がですか?」
arieさん:「何がじゃ無いわよ!!」
なにか、arieさんを怒らすような事態が起きたようだ。
arieさんを知らない人間が、arieさんを怒らすとは不幸な事件だ。arieさんを怒らすとは 人生を棒に振るようなものである。
arieさん:「聞いてる?」
「はい!、聞いています」
arieさん:「よくもやってくれたわね!」
「はい?」
突然身に覚えの無い事を言う。何があったんだ?
arieさん:「しらばっくれるんじゃないわよ」
未来さん:「あの〜少し変わってもらってもいいでしょうか?」
「arieさん、未来さんが電話を変わって欲しいって・・・」
arieさん:「なに?」
arieさんの声のトーンが1オクターブ上がった。
これは、怒りに油を注いだ時の反応。
arieさん:「ぐずぐずしない、早く変わりなさい!」
なんだか解らないが、未来さんに電話を変わった。
未来さんは、今日は薄いブルーの服に着替えていた。
朝の光が部屋の中に差し込もうとしているのを、カーテンが辛うじて防いでくれていた。
それでも、防ぎきれない光が部屋の中のあちこちに、光のオブジェとして踊っていた。
あっ、朝だと 感じさせられた。
ああ、良い匂いと サイドテーブルのコーヒーに救いを求め 乾ききった唇に人並みの暖かさと 恋人のキスほどはありがたく無い湿り気を与えてくれた。
ようやあく、頭以外の体も目を覚ましてきた。
住所かな? 未来さんがarieさんと話しているのは 多分待ち合わせ場所だろう。
チーズの種類? えっ、肉が子羊かどうか? 何の話をしている。
あっ、何故か未来さんがarieさんに謝っている。
そのまま、話が続いている。
未来さん:「はいっ、そのままお待ちください」
一息ついてから 未来山さんが受話器を僕に手渡してくれた。
未来さん:「どうぞ」
あまり嬉しそうな顔をしていなかった。
「はい、変わりました」
arieさん:「良い暮らしをしているのね 一人だけ!」
「はい?」
arieさん:「誰かが、ひなびた野菜と 期限の危ないカップラーメンしかおいとかなくて おいしいご飯を頂いたんだけど だれかはホテルでおいしいご飯だって・・」
「いえ、ホテル暮らしなので 他に行くところが無くて・・」
arieさん:「表にコンビニぐらいあるでしょ!」
なるほど、それを怒ってたんだ・・・って、そんな不条理な事で怒られても
arieさん:「野菜は一週間以上冷蔵庫に保存しない。せめて、2〜3日ぐらい食べるものは置いておく。缶詰は冷蔵庫に入れなくてもいいの!!」
いや、缶詰は冷蔵庫にいれとかないと 冷たくおいしく食べられないでしょう・・・
「でも、皆さんが来る事は知らなかったんで」
arieさん:「間抜け!」
「はい」
これは、何か言い返しても無駄なようだ・・・・
「では、後ほど!」
とりあえず、問題を先送りにした。
電話を強引に切った。
「未来さん、待ち合わせ場所と時間は聞いてらっしゃいますか?」
未来さん:「はい 2時間後に・・」
未来さんは、状況を考え事務的に言った。
「よかった、このまま朝御飯を食べる時間が残って・・」