伊藤探偵事務所の爆発 33

迎えは、黒服の男たち。
両サイドに並んで立って、頭を下げて僕たちを迎える。
「未来さん!!」
未来さん:「はい?」
「ここは、arieさんのメモに有りました?」
未来さん:「いいえ」
「じゃあ嫌がらせの二段落ちですね」
未来さん:「そんな、事情が何か変わったのでは・・・ とにかく行きましょう」
「はい、でもどうやって?」
未来さん:「大丈夫です、何もしゃべる必要はありませんし 堂々と真ん中を歩いてゆけば」
「そういうもんですか?」
未来さん:「さあ、行きましょう」
ぼくは、一応 言われたとおり堂々と胸を張り歩いてみた。
長いローブのような服のお陰で足の震えや、手の振りのおかしい所は見えなかっただろう。
なにより、サングラスのお陰で何処を見て良いかわからない視線が見えなかったことが幸いである。
未来さんは、数歩下がって僕の後ろを付いて来る。
そして、列の最後には 見覚えのある顔が・・・
恭しく僕の手を取り、席に導いたのはarieさんその人だった。
こちらが何か言う前に、arieさんは話し出した。
arieさん:「陛下、初めてお目にかかります 私が本日より通訳の任に当たらせていただきます arieと申します。どうぞよろしくお願いします。」
何なんだ、初めてお目にかかりますって言うのは。
「あの」
arieさん:「はい、」
恭しく、僕の後ろに下がって 椅子の斜め後ろに立った。そして、頭をかがめて耳元で話した。
arieさん:「喜んで、王子の身代わりに決まったから」
「何なんですか、突然」
arieさん:「皆様に向けて、王子から “大儀である”とのお言葉です」
並んでいた男たちがいっせいに頭を下げる。
arieさん:「王子を助け出したけど、馬鹿だからマスコミに写真を撮られて、今更王子だと言えなくなったの。仕事なんだから我慢しなさい」
やはり耳元で言った。
「でも、それなら知らしてくれたって」
arieさん:「王子から“余はこのまま執務に入るので 下がって良い”とおっしゃられています。」
みんなが、ぞろぞろと、頭を下げて下がってゆく。
arieさん:「どうせ言ったって無駄でしょ」
「そりゃ〜そうですけど・・・」
arieさん:「そんなことより、部屋に引っ込むわよ」
見た目は、恭しく手をとって引き連れて行かれているのだが、実情は 指を捻られて無理矢理連れ出された。
そして、広間の一番奥の部屋につれて行かれた。
「いったいどうなってるんですか?」
arieさん:「外に聞こえる、大きな声を出さない!」
「はい、すいません」
未来さん:「私にも、状況が掴めてないんですが」
arieさん:「テレビを見てごらん」
arieさんがリモコンでテレビのスイッチを入れた。
ビデオに録画してあるのか、すぐにニュースが始まった。
昨夜未明、湾岸地区にて大きな火災がありました。
港湾地区の、食料品倉庫から火が出て倉庫一棟が炎上 周辺を交通封鎖する騒ぎになりました。
なお、男性一人が死傷、男女二人が救出されました。
出火原因は、電気の配線からの出火と思われ、現在、消防で原因を調査中です。
尚、助け出された男性は、東京都在住の 探偵業をいとなむ・・・・・
 
「あっ、僕の名前!!」
未来さん:「王子、何故?」
arieさん:「という訳なの判ってくれた?」
未来さん:「どういうことですか? 王子はどうなったんですか?」
arieさん:「一度に、返事が出来ないわよ」
「王子は、arieさん達が保護したんですよね」
arieさん:「その通り、判ってきたじゃない」
未来さん:「王子は無事なんですね!!」
arieさん:「まあ、命に別状は無いわ」
未来さん:「では、怪我をなさってるんですか?」
arieさん:「いえ、あまり煩かったんで・・」
奥のソファーの上で暴れる、ぐるぐる巻きにされた物体を指差した。