伊藤探偵事務所の爆発 35

一日のスケジュールは比較的スムーズに進んだ。
簡単なものである、相手の言っていることが判らない振りをして、何か適当な事をしゃべるとarieさんが翻訳した結果として 僕の知らないようなことを喋ってくれる。
えーっと、とにかく終了した。
唯一苦しかったのは、笑いを堪えることで arieさんの言葉に右往左往する政府関係者の慌て振りもさることながら、従者として付き添った王子に 政府高官が退出せよだの お茶のサーブを手伝わせたりと、思い切った使い方をしてくれるもんだから 王子の怒りを隠した振る舞いが面白くて笑ってしまいそうだった。
顔の大半を隠した服装が功をそうした。
とにかく、大半において交渉はうまく行き、結果オーライトでも言うべきものだ。
ニュースにはきっと流れないだろうとは思うが、交渉はこういったところで行われているのだろう。
王子の国はクーデターというより政権乗っ取りを図ろうとする勢力があり、その勢力が既に現れてきている。
勿論、王子の誘拐もその一環なのだがその一環に過ぎずそれ以外のことも進行している。
王室の権威を下げることによる権力委譲の正当性を主張することを目的にしたものと、もう一つは所謂 力技 つまり軍隊による占領と二つの方法が平行して進んでいる。
最初から、軍を動かして占領することが容易であればその方法を取るのであろうが、その方法が100%に近い勝率を得ていないことを意味し、その勝率を上げるためにの行動である。
王の心配は、「物理的な衝突を避けたい」という事であり、そんなことがあれば国力が弱まり外部からの侵略を許してしまうことの気鬱である。
日本政府には、そのことに関しての具体的な力は無いが 政府が王室を擁護する立場を取ればアメリカが背後に控えていると勘違いさせることも出来るし(いまは、それ所ではないと思う) 今後の復興支援も新政権に関しては期待薄であることを暗に示すことである。
もちろん、何の利権も無い国であれば 日本政府も頬って置くのであるが 大きな鉱山がありレアメタルの鉱山である以上頬っておくわけには行かないのが実情である。
この場合の日本政府の対応は、どちらにもつかずが教科書どおりであり そうするつもりで望んだ交渉だが、王子の誘拐未遂を防いだのが日本国の警備ではなく この王国の部隊であることを強調し交渉を有利に持っていったことはarieさんの手柄であろう。
おそらく、王子ではここまでの交渉は出来ずに 何らかの鉱山の権利を手放すといったカードを持ってきたのであろう。
使わずに交渉を終えたのは、王子にとっては大成功なのだが・・・しかし、納得いかないのは 救出の指揮を取った近衛に対する日本政府の憤りが総て王子に行った事である。
勿論、王子の仮の役職に対してなのであるが。
もう一つの、交渉ごとでの有利な点は、国同士の交渉ごとであまり使われない手法 “はったり”を使えたことである。
それ以外の条件を出して、最終的に目的とする条件で認めさせようという強気な外交を行ったことである。
ゆえに、大使達が慌てることになったのだが それはやむ終えない。所謂、格が違うということで・・
ようやく、部屋に帰って自分たちの時間が出来る。
なんでも、宗教上の理由で一緒に食事が出来ないとの事で 誤魔化してしまったからであり 食事会でも口を開いてものを食べる必要も無く ただ、頷いていれば良かったからである。
「みなさん、お疲れ様でした」
一番疲れていたのは、誰でもない未来さん。
内情を本当に知っているのは彼女だけ。
その彼女の前で、綱渡りのような外交を繰り広げたのだ。
ばれたら 勿論唯では済まない。おそらく、かなり緊張したであろう。
王子は王子で緊張したであろう、国の一大事を背負ってやって来てただ、そばで見てるだけ。
勿論、arieさんも・・・・
緊張するタイプでは無かったことを忘れていた。
緊張なんて無縁なのだからであろう。
とにかく、一応便宜上宗教上の問題ということで 一人で食事をしそのご、みんなを集めての明日の計画を練ることになった。
ともあれ、arieさんや所長が参加し、明日のことを聞くだけのはずだったのだが 所長は予告どおりなのか、飲みにいったまま帰ってこなかった。
arieさん:「まあ、所長はあんなだけど明日も楽しくやりましょう」
王子:「責任者が来ないのはどうなっているんだ?」
「多分、飲みにいったまま忘れてるんだと思いますけど・・」
王子:「なに? そんなやつに任せられるか!!」
未来さん:「我々が、命に代えてもお守りします」
arieさん:「未来さん、あなたの任務に王子を守るって言うのは無かったはずだけど?」
未来さん:「そういうわけには行きません、外交問題になります」
arieさん:「もう死んだことになってるんだから、今更でしょ」
王子:「どういう意味だ?」
arieさん:「もう、死んでもあまり困らないって事」
王子の怒り、arieさんの毒舌 どちらも炸裂していた。