[お話]伊藤探偵事務所の爆発 35

男A:「だから、正面から行こうや」
暗い、狭い 通路を両腕の力と両足の力だけを頼りに登ってゆく。
男は、背は小さく丸い体で ふうふうと息を継ぎながら上っている。
男B:「正面からは駄目だって、俺らが来てるのが判ったら困っちゃうだろ」
同じ通路とは思えない。もう一人の男も背は差ほど高くないのでは有るが その細い肢体は骨と皮だけの印象がある。しかし、その動きが背骨を丸く曲げて動くために全体的に体は丸く見える。
どっちかというと気持ち悪いほうに分類される二人だった。
男A:「すくんだよな・・」
たどたどしい動きというより、みてればドテドテと効果音を入れたくなるような動きだった。
男B:「何だって?」
軽々とその男のほうは昇ってゆく。
男A:「だからお腹が減るんだって、体を動かすと」
下を見ようにも、狭い通路の殆どはその大きな体が塞いでいて見えなかった。
男B:「燃費の悪い体だな その丸いのは」
ペースが合わないので、休憩する男
男A:「ふん、人生の1/3を諦めた奴には言われたくないな」
その瞬間、男の膝がダクトから滑った。
優雅に休憩していた男の片手を弾いて、その大きな体を尻のほうからすべり落としてきた。
男B:「ぐぇ」
滑り落ちる巨体を両手両足で踏ん張っている体で突っ張って堪えた。
男B:「重いんだよ、デブ!」
男A:「ごめん、滑った」
男B:「謝るのは後で言いから、とっとと退きやがれ」
もがく男の尻は、左右に振られ 余計に男Bの顔を押しつぶす。
それでも、数分もがいた後にようやく数歩分上に上がった。
男A:「ふ〜、助かった」
男B:「おい!」
起こった口調で男Bが言った。
男A:「ごめん、なに?」
男B:「遅いんだよ、こののろま」
男A:「だからごめんって」
男B:「それに重いんだよ、このブタ」
男A:「だからごめんって言ってるじゃない。あとで何かちゃんと穴埋めするから」
男B:「何くれる?」
男A:「日本製の、ノーカット」
男B:「3本な!」
男A:「え〜 三本も?」 
男B:「自業自得だって」
通気口を進んで忍び込んできているにしては緊張感の無い二人である。
結局二人の会話は止まらない。
そのまま、話しつづけてそれでも ホテルのストックヤードから約5階分の通路を20分程で上りきった。
そして、通路の通気候から静かに体を下ろした。
ただ、旗から見ていればゴムマリが地面に落ちて弾んでいるようにすら見えた。
そして、次にもう一人の痩せたおとこが降りてこようとしている。
男A:「お〜い、生でもいいか?」
上を見上げながら男が言った。
男B:「何がだよ?」
男A:「ノーカット」
丸い体を弾ませるようにして、男はその体を信じられないほど速い速度で動かした。
男B:「体 次第だな・・」
通気口から軽やかに体を滑らせて飛び降りた。
男B:「いいぜ、これなら一つで」
同じく 前に出た男よりも、尚 速い速度で動いた。
ターゲットになった女性は、両足を開いて腰を低く構え手を目の前一杯にのばした状態で右手を上に左手を下にして、手のひらを指をそろえて真っ直ぐに成るように開いて立っている。
そして右手と左手の場所を上下に入れ替えて、右手を下に向けて下げてゆき正面を向いていた体を、顔の方向は其のままに 体だけ横を向けた。
右腕は肩より下、腰より上 つまり胸の高さぐらいの位置で止めた。
そして、左手は肘を曲げ、腰のあたりに手のひらが来る状態で止めた。
体の動きを止めた瞬間に、男たちの足が止まった。
男B:「へーやるもんだ、これは覚悟してかからないと・・」
女性は、体の向きを左右入れ替え、右手の手のひらを上に向けて真っ直ぐ伸ばした。
そして、指を上に向けて曲げ男たちを改めて誘うように動かした。
男A:「へ〜、誘っている訳ね」
その女性は、未来さん。侵入して来た男達に気がついて動いたようだ。