Miss Lは、ローズバスが大好き 37

なんで私がこんなに寂しいところを歩いているんだろう。痴漢に会うのは亜矢子警視だった筈なのに。
本当に何にも無い。
地下鉄の駅を出たら、プレハブ小屋と海しか見えない。あとは全部平らな土地。
こんな土地が余っているなら東京都の住宅事情がもっと良くなるはず。
小柳刑事の「命に代えても僕が守ります」も、先日のことを考えたらあてにならないし、きっとMr.Gは事務所から出てくることは無いだろう。
そして、行方不明の亜矢子警視。
 
亜矢子警視:「あざとすぎると思わない? 小柳君の言ったように私が痴漢に会うなんてゴジラでも連れてこない限りありえないって さっき思ってたとおりよ。」
小柳刑事:「決してそんな事は思っていません」
でもあの慌てようから考えると ゴジラでなくてもショッカーの怪人ぐらいは想像していた顔だった。
Mr.G:「しかし、あなたが出なければ 相手は焦らないとおもうのですが?」
亜矢子警視:「私の親類が痴漢に会うって言うのはどう? そして怒りに我を忘れた私が操作をするって言うのは。」
小柳刑事:「民間人を囮に使うのは危険すぎます」
強い口調で、制止をかけた。しかし、亜矢子警視の表情は微笑んだままだった。
亜矢子警視:「危ないと思ったらあなたが守ってあげればいいじゃない! それに完全に民間人というわけでも無さそうだから・・・」
亜矢子警視の意志の強そうな目は私のほう向いていた。
Mr.Gと小柳刑事はその視線の先を追って 私に6個の目がいっせいに向く形になった。
「だ、駄目ですよ 自慢じゃないけど痴漢なんて会った事も 見た事もないんですから!! 自分の事ぐらい 自分が一番良く知っています。」
小柳刑事の諦めたような目が印象的だった。Mr.Gの目は見開いたまま。そして、亜矢子警視の目はいつもきりりとした目じりがじわじわと下がってきている。
亜矢子警視:「さー、きれい きれいしましょうね」
有無を言わさず腕を握って 部屋まで引きずっていかれた。
Mr.Gが買ったものの、あまりに私に似合わなくて着られなかった服たちの山をあさり始めた。
亜矢子警視:「なかなかおしゃれな服持っているわね 着ないと勿体無いわよ」
「それは、Mr.Gが用意してくれた服です。そんな服私には似合わないですから」
亜矢子警視:「いい、服は似合うから着るんじゃないの」
スラリとした長い足を指差しながら亜矢子警視が言った。
そりゃーそんなにスタイルが良ければなんでも着られるでしょう。
亜矢子警視:「いい、気合で着るの 気合で!!」
下を向いていたはずの指がいつの間にか天を向いていた。
この人ならこういうスタイルでなくても、やっぱり気合で着るんだろうなと思った。
しかし、私が着ると言う事とは別なんですぅ!!
口紅以外の化粧品を久しぶりに見て、いえ 見ただけですまなかった。
顔中に色んな物を塗りたくられました。
髪の毛にも、出来上がった途端事務所からほり出されて地下鉄の駅に向かった。誰か付いてきてもらえると思ったのに 誰も付いてこなかった。
 
駅まで来る指示は貰ったけど、その後どうすればいいかまでは聞いていない。
駅にも一人人がいるだけ。この駅まで来た人がいるだけでも駅の係員が驚いているぐらいだから想像が付く。
とりあえずすることも無いので海のほうに向かって歩いてゆく。念のために確認したら携帯電話のアンテナマークは3本出ているので電話は繋がるようだ。
昼間なのにお化けでも出そうなところだ。もっともお化けは見てないけど怪物は見たんだから50歩100歩。
その化け物をいぶり出そうとしているんだから、お化けが出そうなことに不思議は無い。
妙な事に納得しながら歩いている。
あちこちに生えてるパイプが不気味だけど、工事現場にもうすぐ成る筈の土地だからそういうもんなんだろう。
地面の下から突き上げるような工事の音がする。恐らく地下鉄のトンネルを掘削する音だろう。現場の人はまじめに作業をしているんだな
でも、足の下から聞こえてくる音は何かがうなっているようにも聞こえる。
海沿いには、一箇所だけ金網に囲われた一角がある。
ここにもし秘密基地があるんだったら、ここは怪しいですと書いてあるようなものじゃない・・・・・ああ、こんな何も無いところに降りてくる客なんていないんだ。
金網には 工事の札がかかっている。岸田ビルディング建設予定地。関係者以外立ち入り禁止。
金網の入り口は鎖で巻いてあり 大きな南京錠で止めてある。それも錆びてここ一年ぐらいの間にあけられたような形跡は無い。
奥に見える朽ち果てかけたプレハブ小屋から考えてもこんなところに金網立ててどうするつもりだろう? 盗るものなんて何にも無いのに。
金網につかまって中を覗いたが、大きすぎる敷地はただの平らな埋立地
少し後悔したのは、てがドロドロに成った事。かばんも取り上げられたのでかばんの中には財布しか入ってない。あとで駅で手を洗いましょう。