Miss Lは、ローズバスが大好き 39

ピエロは、ここで悲しみに明け暮れる女性を相手に練習をしていたようだ。
もっとも、それ以外の用件で来る物好きはいないでしょう。って言ったら 「物好き発見」と指差されたぐらいだから 本当にいないんだろう。
でも、いつもここにいるんだったら・・・・
「ここって何ですか? 何にもないのにこうやって金網が張ってあって・・」
ピエロ:「やっぱり変わっていますね こんな事が気になるなんて。」
「自分では普通って思っているんですけど?」
ピエロ:「普通、おかしい人は自分のことがおかしいとは言いません。」
そりゃーそうかもしれない。しかし、何度も失礼なやつだな!!
ピエロ:「もっとも、変わっているって事が悪いことでは無いとは思いますが。ただ・・」
「ただ、何ですか?」
ピエロ:「どういったご職業ですか?」
ん、どう答えたらいいんだろう? 何だか意味ありげな問いかけ
「普通の事務員だけど」
ピエロ:「そうですが、まだ修行が足りないようです。」
「どういう意味ですか?」
ピエロ:「こんなことが気になるなんて、警察だったり探偵だったりそういった職業の方だけかと思ったんですが?」
どきっ、両方ともあたっていると言えますよね・・・
推理小説は大好きですけどね」
ピエロ:「では、ミス・マーブル どちらが怪しいとお思いですか?」
「あんな朽ち果てかけた小屋を守るような金網って それも穴も開いてないって普通おかしいと思わない?」
ピエロ:「そうですね、浮浪者も暴走族もいない国ならともかくというところですね」
「それより、ミス・マーブルってなに? せめてハニー・ウエストにしてくれない?」
ピエロ:「ハニー・ウエストですか・・・・、アガサクリスティはお嫌いなようですね」
笑いながらピエロは答えた。
明らかに、こちらの返事の意味が判っていていっているようだ。
「アガサクリスティの女探偵って年に見えたって言うわけ?」
アガサクリスティの描く女性探偵は、何故かいつも70歳ぐらいの女性である。さすがにそんな年ではない。
ピエロ:「なるほど、流石にかなりの推理小説ファンでらっしゃるようですね」
「試していたって訳?」
ピエロ:「とんでもない、なかなかの推理眼ですね 確かに何度か金網は作り直されていますね 私が知っている範囲でも」
「やっぱり」
ここはなにか怪しいようだ。
ピエロ:「で、この後は侵入捜査ですか?」
そうしたいところだけど・・・・
「まさか、私は安楽椅子に座っているのが好きなの。」
ピエロ:「ハニー・ウエストがですか?」
「そこだけは、アガサクリスティのファンなんです。」
“ぷるるる”
「あっ、ちょっとごめんなさいね」
電話が鳴った。話の途中であったが事務所からだったので電話に出た。
「はい、もしもし?」
Mr.G:「どうですか?どちらは」
「痴漢に会うほど賑やかなところではありませんね」
Mr.G:「やはり、では第二計画に移りましょう」
「第二計画って何ですか?」
Mr.G:「あなたのかばんの中には、亜矢子警視の名刺が入っているはずです。それを、あなたが怪しいと思っているところに投げ込んできてください。そうすれば相手が動いてくれるでしょう」
「私が怪しいと思っているところですか?」
Mr.G:「もう見つけてらっしゃるでしょ」
「判りました。では置いてきます」
どこからか見ているのか、こちらの状況を掴んでいるのか それとも予想でそういっているのか それとも、既に怪しいところがあると知っていてここまで出かけさせたのか?それは判らなかったが 何らかの根拠は得ているようだ。
耳元にかかる生暖かい息に驚いて振り返ると 唇がくっつきそうな位置にピエロの顔があった。
「きゃっ」
思わず飛びのいた。
そして意識しなかったが思いっきり右腕が風きり音を鳴らしピエロの顔に飛んだ。
しかし、その手が当たったときの感触は人の顔に当たった感触ではなかった。
ピエロ:「ごめんなさい つい出来心で・・・」
出来心もさることながら、この至近距離での突然のビンタを受け止めていた。このピエロ只者じゃない・・・・
ピエロ:「でも、普通の事務員の会話じゃないような気がしますけど?」
ピエロが興味深そうにこちらの顔を覗き込んでいる。
私は、手を自分のほうに戻しながら 次の言葉を迷いながら選んだ。