Miss Lは、ローズバスが大好き 42

小柳刑事:「それは、どちらかの民族舞踊 なんかですか?」
肩から下げるように垂らして着るこれは確かにモンゴルの民族衣装の一つである。
「そうですね、舞踊とは少し違うかもしれませんが」
ちゃんと駅からすぐにも拘らず、事務所までには計ったかのように人通りの少ない それも一日中殆ど人通りの無いような道が存在する。
その直前で 肩掛けを着て 4つのパーツに分かれた棒を繫いだ。たしかに知らない人から見れば 民族舞踊のそれに見えたのかもしれない。
軽く棒を振り回してみる。
棒の両端には飾りが付いており、そこには小さな穴がいくつか開いていて軽く振っても風が流れて音がする。
「へ〜、思ったよりずっと軽い」
二〜三周からだの周りを振り回すと 速度で音階が変わり その音に“ぱちぱち”という棒の軋む様な音も混じっている。
小柳刑事:「お見事な物ですね ん、まだ何か?」
荷物を取り出した袋の中には
“責任は取りますので、よろしくお願いします。 Mr.G”と書かれた紙が入っていた。
袋の大きく開いた口を棒に引っ掛けて、空に投げ飛ばして引いた棒で一気に突き破った。
「どんな責任を取ってくれるか 楽しみだわ!!」
小柳刑事:「はい?」
以外に間抜けな顔で 小柳刑事が答えた。
しかし、その顔はすぐにきりりと引き締まることになった。
突き破った袋が合図になったかのように、後ろから三人の男たちが襲い掛かってきた。
痩せた背の高い男が一人に、背はそれほど高くは無いが人とは思えない大きな肩の筋肉を、そう まるでアメリカンフットボールの防具を付けたかのような 特殊な肉付きをした男が二人だった。
小柳刑事の脇をすり抜けて 私に向かって突き進んできた男たちに、普段のおっとりした動きからは想像できない速度で足を蹴りだした。
唯一、長身の男は避けてジャンプをして逃れたが、残りの二人には当りの深さはともかく 足止めにはなった。
必然的に、長身の男と私。後の二人は小柳刑事の担当となった。
棒を体に沿わせて回し、相手の視線の高さで止めたところで 長身の男も動きを止めこちらに向かっての姿勢をとった。
右腕を顔の高さまで上げてその腕越しにこちらを見る構え、左腕は体の後ろに隠し持っている武器を見せないような体制。中国拳法崩れの軍隊仕込って感じの構えだった。
軽く、そして速い突きを相手に向かって繰り出したが、軽く右手で払われた。
硬質な物に当った感触から 何かの武器を右腕にも持っているようだった。
長身の男:「どちらの田舎出身かは存じませんが あまり無理を為さらない方が痛い思いをしなくて済みますよ」
丁寧な言い回しは解るが、喋っていることは無茶苦茶、勿論言うことを聞いてあげたりはしない。
「田舎物だけは余計だったわね お陰でやる気が出てきたわ」
チラッと見た小柳刑事は、まるで二匹の犬と戦っているがごとく 飛び掛ってくる二人の男を交互に 最も近くに寄った辺りで弾き飛ばしていた。
後ろに引いていた手を、より一層強く下げたのが見えた。
普通であれば、後ろ側の足を蹴り足にして 前に出てくるのが普通であるが 前の足を一層前に蹴りだした。この歩法は 中国拳法のもの。
前の足が地面に付いた瞬間に、後ろにある蹴り脚を使って大きくこちらの想像を上回る速度で近づいてくる。まるで、ローラースケートにでも乗っているかのように。
目いっぱい引き下げられた後ろにあった左手が、地面すれすれから競りあがるように迫ってくる。体の動きも予想外なら、そこから更に伸びてくる腕の長さも継ぎ足されるわけですから避けるのが非常に難しい攻撃だった。
ましてや、その切っ先を目の高さまで上げた棒で受けるのは至難の業。
相手を甘く見ていた証拠である。
地面を引きずりながら、棒の反対側を下から前に引き出した。
こちらにも相手の攻撃は当るだろうが、こちらの攻撃も相手の顔に当るはず。
目いっぱい、胸をそらして相手の攻撃の直撃を避けた。
その瞬間、相手の攻撃の速度が僅かながら下がった。そして、相手の腕に動く影が見えた。
とっさに、棒を左に振って目の前に迫ってくる影を叩き落とした。
相手が、自分への直撃を避けるために動いたことがこちらの避ける時間を稼いだわけである。
相手の腕の長さに加えること 50cmぐらいの長さが木の棒によって継ぎ足されていた。
その棒に取り付けられているのは、垂直に付いた握り手。恐らく袖の下にこの本体を隠していたのであろう。
お互いの姿勢を確認したところで、そのまま双方に離れた。
長身の男:「俺の、トンファーを避けるとは 田舎物にしては中々じゃないか」
相手の動きは、恐らく劈卦拳のもの 遠くから一瞬で距離を詰めてくる。こちらの武器の長さを相殺して来るつもりらしい。
ゆっくり、棒を廻し始めた。棒に遠心力を付けることによって 棒の動きに威力を増し少しでも遠くに威力を保ったまま届かせることが出来る。
回す速度があがるにつれ、棒から音が鳴り始める。
長身の男は、今度は低い体制を取り始めた。