Miss Lは、ローズバスが大好き 43

格闘技の世界では、体が大きなことが有利な条件である。しかし、それが試合と言うスタイルを外れれば必ずしも有利な条件とはならない。
体の大きなことは、打撃の威力を増す事には繋がるが 相手に攻撃のポイントを多く提供する事になっている。
急所は一撃で相手を倒す事ができるが、それ以外の場所も攻撃されればいたいのである。
実践での攻撃は、必ずしも顔に向かってくるとは限らない。武器を持っていれば尚である。
視界を奪う事が目的でなければ、心臓が止まっても人は死ぬのである。
視界から遠ければ遠いほど確認しにくいのである。
地を這うような、手を地面について動物のようなけり足で迫ってくる二匹の獣。外観は人だかどうだか疑わしい。
刑事は普段は拳銃を持っていないし、尚更銀の弾丸は持ってない。
「ヴァン ヘルシングになった気分だ」小柳刑事は口の中でつぶやいた。
それは、バンパイヤキラーだと間違いを正す人は当然おらず そんな言葉を聞いている余裕のある人はこの5人の中にはいなかった。
腰の少し上の辺りを中心に攻撃を集めてくる。最も防御 攻撃しにくい場所で特に多対一の場合足を取られて倒されれば勝ち目は無い。蹴りなどを不用意に出せば一人は倒せるかもしれないが崩れた体制を取り戻すまでの間にしがみつかれて終わりである。
「Miss.L大丈夫ですか?」
早く助けに行きたいが、2対1で 相手を倒すのはそうやすやすといかない。
そう大柄でもなく、筋肉質でもないMiss.Lと長身の男の戦いは見事でこういった状況でなければゆっくり楽しみたいところであるがそうもいかない。わざわざ迎えに来て守れなかったではMr.Gに対しても男としても 洒落にならない。
しかし、驚いたのはMiss.Lの戦い方である。いくら軽いとはいえ棒を使い大の男の攻撃をいなしている。何か拳法の心得が有るのであろう。
双方の攻撃は一瞬で、それ故に私目がそちらに奪われていても戦いに支障が無い。
ただ、決して分がいいわけではない。Miss.Lは女性である。それも小柄で知的で魅力的な。まあ、後半はともかくとして非力な事は腕の太さからも伺える。
あいては、痩せているとはいえ長身の男 その一撃の威力が違いすぎる。
それを補うために、棒を振り回し遠心力で威力を出している。
だが、演武用と思われるMiss.Lの棒は振り回せば風を切り大きな音がする。Miss.Lは気が付いているのかどうか 相手にその攻撃が読まれている。
一般的には気配と言う言い方をするが、ある程度の実力までくれば相手の動きが読めるようになる。あんなに大きな音を出していれば それも攻撃の瞬間に音が変化するような武器を持っていれば攻撃しますと言うのを相手に知らせているようなものだ。
「長くは持たない」そうおもった。そして、実際 だんだん男の攻撃の割合が増えMiss.Lは攻撃できないでいる。
こちらを片付けて行くしかない。
二人の男の間から一歩引いて構えた。二人(二匹というほうが正解かもしれない)常に私を両方に挟んだ対極にいる。これではどちらに対しても攻撃できない その位置を崩すために一歩引いた。
こちらの動きを相手も見逃さない。
その瞬間に両方から飛び掛ってくる。こちらの下がった地点に向けて。
左から来る男に、つま先からの蹴りを叩き込んだ。金属同士が擦れ合う音がして火花が飛んだ。相手の手には武器が握られているようで それが私の安全靴とぶつかって音を出したようである。
もちろん、もう一人は私の後ろから攻撃をかけてくる。勿論予想の範囲である。大きく体を翻して避けた。
この服も靴も警察からの支給品ではない。故に、自腹で買ったものだ。今月のタバコ代が消えてしまった。
靴は、皮の部分が大きくえぐれて開いている。金属製のつま先の保護が無ければ足の指が無くなっていただろう。実践では有効な攻撃で足の指がなくなれば人は立てなくなるのである。
また、完全に避けたはずのもう一人からの攻撃だったが、服の背中は綺麗に肩越しから裾まで綺麗に避けている。
「経費申請しても駄目だろうな・・・・」
攻撃が済めば、また、二人は左右等距離を取ってこちらの様子を伺っている。
積極的に攻撃をしないのは、俺は足止めされているだけかもしれない。目的は、Miss.Lのようだ。ゆっくりはしてられない。
もう一度こちらから仕掛ける、大き目の一歩引き下がった後にもう一歩引き下がる。やはり攻撃を仕掛けてくる。相手の手に武器があるということは近づかれたら危ない。恐らくこちらにそれを認識させるためのさっきの攻撃でもあったのであろう。
もう一歩小刻みに引き下がる。あまり大きく下がっては相手が距離をとり再びこちらへの方位を固めるだけだからである。よく出来た戦法である。
「どっちだ?」
両方同時には仕掛けてこない。少しずらして攻撃をしてくる。
「左!」
体を左にひねって、腕を下から救い上げるように振り上げる。
もちろん、腰の上ぐらいを狙ってくる。少し離れればこちらの手は届かないし腰の入ったパンチは届かない。
当然相手もそう思って大きな回避動作は取らない。
もう一人の攻撃が、僅かに遅れて体をひねった反対側背中から左肩に向かって迫る。