Miss Lは、ローズバスが大好き 49

肌に感じるぴりぴりした感じは、この場の緊張感だろうか。
鷲や鷹のように、足を下に羽根を上に急降下する。鳥であれば羽を畳んでミサイルのようにという表現もあるのであろうが 残念ながら手も足もある人型の体に羽が付いている姿で羽を畳んで降りてくる いや、落ちてくるとただの投身自殺にしか見えない。
ただ、不気味な顔だけは、投身自殺者のものではなく 殺人者のものである。
「は〜っ」
腹のそこから声を出しているのか、いつものMiss.Lの声からは信じられないような低い声。その声の低さもさることながら、いくつもの声帯があるかのように 震える空気には いくつもの高さの声が ユニゾンでも奏でるかのように低いハーモニーを奏でている。
もう僅かで、というところで速度を落とし体をひねりながら攻撃態勢に入る怪物。
「危ない!!」
思わず声が出た。
声が出たところで、何の助けにもならない。
「はっ!」
Miss.Lは声を出して、どこからか見えなかったが 棒を突き出した。回転する軌跡が消えるより先に突き出した棒の先端が見えた。それも黄色く光って。
右手を後ろに逸らした手で思いっきり突きこむMiss.L。怪物の右肩に棒の先端が延びる。当たる瞬間に肩にかけられたフェルトの肩当を滑らすように出た棒に左手を添えた。
当たった瞬間と左手を添えた瞬間が同時だった。
「なっ」
目を開けていられない。Miss.Lの持っている棒が目を潰した。
目が視力を取り戻した瞬間、恐らく光っていた瞬間は1秒に満たない時間であったのであろうが、視力を取り戻したのは数秒後だった。
うっすら見える目の前には、地上に落ちてもがく怪物の姿だった。
うごめく怪物には、片方の そう右側の羽が付いていなかった。
「発雷!」
棒を引きながら、Miss.Lは言った。
この輝きはMiss.Lが起したものに間違いが無いであろうし、この地面で蠢いている怪物を倒したのも間違いなく彼女であろうことは間違いない。
深呼吸をするMiss.L。今の姿は 完全にいつものMiss.Lの姿だ。
棒を立てて、肩に立てかけ何故かシャツの首筋から中を覗いている。胸の辺りを。
「どうしたんですか、Miss.L?」
なにか、すれ違いざまに何か怪我をしたのだろうか?
ようやく危険が去ってからで情け無いがMiss.Lに駆け寄った。
「どこか怪我でも」
Miss.Lの覗き込んでいる首筋に近づいた。
「駄目!」
Miss.Lの叫びと共に、目の前が暗くなった。そして、意識がなくなった。
 
やっちゃった!!
だって、シャツの前を広げて自分の胸を覗き込んでいるときに 顔を寄せてくるなんて・・・
そうよ、私が悪いんだけど 私だって人前でシャツを開けて胸を覗き込むなんてことをしたくは無いんだけど あれは駄目なの。あれを使うと無くなっちゃうの。
「小柳刑事、大丈夫ですか?」
倒れている小柳刑事を抱き起こした。
そして、肩を押さえて揺さぶってみたが起きるそぶりも無かった。
つい、肩にかけてあった棒を廻して頭からの打撃を与えたわけだから 簡単に起きるはずは無い。
電話がかかってきた。勿論、Mr.Gからで 亜矢子警視に連絡を取ったという事。
間もなく来るだろう警官隊を待つ間、小柳刑事を道路の端に寄せて一緒に地面に座り込んだ。
棒を3本に分けて、肩掛けの裏側にあるポケットに収めた。
カバンの中では、ここに入っていたのでその為のポケットなのであろう。
手足に少し痺れが残っているし、おなかが空いた・・・・不謹慎なのであろうか?
しばらく後、警官隊が付き いくつかの尋問を受けたが 亜矢子警視のお陰ですぐに解放された。
しかし、この警官隊は普通の事件だけを扱う部隊ではないのであろう。怪物の姿を見ても驚いた様子も無い。人の目に触れる前に処置するためなのかあっという間に片付けてしまった。
亜矢子警視:「いつまで寝てるんだ!」
ヒールは、迷わず小柳警視の肩の下あたりにめり込んだ。
痛みに体が反射的に動いたようで、びくっと動いて その後意識を取り戻したようだ。
体をひねって、膝立ちになり構えを取った。恐らく、記憶が混乱しているのであろう。
亜矢子警視:「きおつけ〜っ」
無条件に体が反応するようで、小柳刑事は直立した体制を取った。
小柳刑事:「えと、どうなったんでしょう?」
頭が働いてきたのか状況を考えているようだ。
「ごめんなさい」
私は小柳刑事に向かって、大きく頭を下げた。
小柳刑事:「は、はい」