Miss Lは、ローズバスが大好き 50

「とりあえずお茶を」
事務所に帰って最初に発した言葉はそれだった。
肩から、大きな肩掛けを下ろした。棒が仕込んであるのでカチャカチャ音がした。
相変わらず、Mr.Gは奥の席で背中を見せて座っている。
亜矢子警視は、何故か嬉しそうにニコニコしながら足を組んで座っている。小柳刑事は、頑張っているようであるが 気を抜くとソファーに倒れ掛かりそうである。
とりあえずなのと、疲れているので悪いけど簡単なコーヒーで許してもらおう。
怪我をしたわけではないけど、何箇所かの擦り傷がある。コーヒーの匂いは 気を休ませるが傷口にはしみるような気がするのは私だけだろうか?
ざっと、振るいにかけたコーヒー豆をぐるぐると轢いて コーヒーメーカーに入れる。
待っている間私もソファーに倒れこんだ。
「しばらくお待ちくださいね」
小柳刑事は疲れた体を起して声を出した。
小柳刑事:「説明してくれませんか? Mr.G それとも亜矢子警視ですか?」
亜矢子警視は、拳を親指だけ出して握ってMr.Gを指差した。
亜矢子警視:「しかし、凄いわね 怪物まで捕まえてくれるなんて」
本当に嬉しそうだ。
小柳警視:「亜矢子警視不謹慎です!」
声を荒げて小柳警視が言った。
部屋の空気が張り詰めた。
小柳刑事が私のことを思って言ってくれているのであろうが、それよりもどういう事かに興味があった。
「出来たみたいなのでコーヒーを入れてきますね」
意識して軽い笑顔を作って言った。
時間が又緩やかに流れ出した。
腰を浮かしていた小柳刑事は、そのままソファーに座った。
お盆に乗せた、コーヒーカップを亜矢子警視に そして小柳刑事 それから Mr.Gの机の上に置いた。
自分の分はお盆のまま机の上においた。
「どうして知ってらっしゃいますの?」
ゆっくり椅子を廻して、こちらを向いた。
まるで悪戯を見つかった子供のような 反省もしていないが怒られる事に怯えている複雑な表情だった。
Mr.G:「君の事を調べているうちに、武術大会の事が出てきたんでね」
いや、そんなはずは無い。それで奥義の事まで知るはずが無い。
「本当のことを教えていただきませんか?」
武術代会には偽名で出ているし、そのときと今では体型も顔も違う。
Mr.Gは30度ほど椅子を廻して、ソファーのほうに椅子を向けて私の視線を逸らした。
私は、Mr.Gの机に軽く腰掛けた。
Mr.G:「小柳刑事、Miss.Lの“L”はなんだかわかるか?」
小柳刑事:「いえ、知りません」
「ちょっと、止めてくださいその話は」
私は慌てた。その話は人に最も知られたくない話だ。
Mr.G:「彼女の胸のサイズが大きかったので、“L”というあだ名だったんだけどね」
あちゃ〜、言ってしまった。
小柳刑事の視線が、私の体に注がれるのがわかる。
自慢じゃないが、何度も言うように今は洗濯板のような胸である。服でごまかしても起伏が少ない事ぐらい想像が付くだろうし。
亜矢子警視:「へ〜」
Mr.G:「実は、老師と知り合いだったんだ。」
へ? なんでMr.Gと?
「お知り合いだったんですか?」
Mr.G:「正確には、相手から知り合いに成ってきたということなんですがね」
小柳刑事:「すいません、話がよく判らないんですが?」
それはそうでしょう。断片的な話だけで理解できるような簡単な話ではない。
Mr.G:「小柳刑事は胸の無い女性でも良いってことだから それで良いでしょう」
小柳刑事も、話が相変わらず理解できないようで ぽかんとしている。
亜矢子警視:「とりあえずちゃんと説明してくださらない?」
急にまじめな口調になった亜矢子警視は聞いた。
Mr.G:「まず、相手のことだが 既に警察のほうで調べているが 恐らくMiss.Lの発雷で落ちた事から考えても機械仕掛けなんだろう。」
亜矢子警視:「ロボットですか?」
「そんな筈は無いでしょう。この間は舌も有ったし 生暖かい感触とぬるぬるした感じは生き物のものでした」
Mr.G:「正確には、アンドロイドというのが正しいのでしょうか? 半機械というところです」
棒を使ったときの感触は、骨を砕くものではなく金属に当たったかのような感触では有った。そして、思った以上に軽い感触。なにか非生物的なものを感じた事も確かだった。
Mr.G:「半機械というからには生態的な部分が含まれています。それがどういうものかが問題ですが・・・」
亜矢子警視が腕を組んで、考え始めた。