スーパーヒーロー

PDAの地図ソフトは便利である。本当は車のNAVIのようなものが良いのではあるがいかんせん体に着けるわけにも行かず、ほかに選択肢が無いというのも事実である。後はHDDのないこと、動くたびに衝撃でHDDに損傷が出ないかの心配をしなくて良い。
なんといっても、携帯電話に無い閲覧製がある。
VGA化された液晶は、まるで10階建てのビルの上から実際の街を見下ろすかごとくで 必要があれば、航空写真(衛星写真?)に切り替えることが出来る。
その写真の画像は、まるで実際の街のよう。
 
「天は二物を与えず」という言葉は本当である。いや、私はそう信じている。
超能力者は存在するがスーパーヒーローは存在しない。それは、歴史が物語っている。
もしいるとしたら、俺のように相当無理をするしかない。
アメリカンフットボールのプロテクターに防弾チョッキ。特注のヘルメットは頭を守るために必要だ。出来る限り衝撃を弱めるための装備も気休めでしかない。
後は体を鍛えるしかない。
気を貯め、しゃがみこんだ体制から一気に筋力と気力を開放する。最大では成層圏まで達するほどのジャンプが可能になる(勿論、試したことは無い命が惜しいから・・・)と、マスコミは騒ぎ立てるスーパーヒーローそれが俺である。
 
子供の頃は力の制御が出来ず、「落下王」と呼ばれていた。
校舎の3Fから落下して、幸いにも木に引っかかって命からがら助かったり。押されて体育館の上の教室から落ちて、プールにダイビングして助かったりと。勿論真冬のプールに落ちて生還したのだから強靭な肉体をアピールできたわけなのだが、知っての通り真冬のプールは緑のアメーバー状の液体に覆われている。
緑の液体を体にまとい プールから這い上がってきた姿に誰も手を差し伸べてくれなかったことを覚えている。それ以来、この能力をひた隠しに隠すと心に決めたのだ。
「悪魔の毒々モンスター」と言うのが小学生時代に付いた最も悪意のあるあだ名だった。B級だし・・・・
 
好き好んでいつも落下するわけではない。飛び上がった後に落下するのはニュートンが決めたことだからしょうがない。勿論、飛び上がる能力には対に成る着地する能力がある。気を貯めて着地するだけで、飛び上がるときと変わらないように構えて着地すれば大丈夫である。気さえ貯まっていれば、多少痛いけど転がって着地しようが大丈夫である。
勿論、貯まっていればの話である。
気を貯めるためには、体のおへその辺りに意識を集中して 10秒ほど経つと体中が燃えるように熱くなって放出できるようになる。
勿論、止まってなくても動いていても可能であるが 時間的に5秒ぐらいの時間は必ずいる。そうでなければ能力を発揮できないのである。
10階建てのビルの高さまで飛び上がることは出来るのだが、3階建てのビルの高さに飛び上がることの出来ない 難儀な能力である。
地面に降り立つときまでに 気を貯める時間のない3Fぐらいの高さからだと墜落するしかない。
 
「悪を許さない心が私を強くする!」
決め台詞と共に私は登場した。
銃を撃ち合う男たちの(女性差別ではありません 本当にそうなんだから)間に立ちはだかった。
右側に一際大きく作られたプロテクターを突き出し、一気に片方のグループに向けて加速する。
10階建てのビルを飛び越す力を、横向きに使えば弾丸のようにグループに飛び込んだ。人がまるでボーリングのピンのようにぶつかり合って倒れてゆく。
瞬間、男たちは何が起こったのか理解できずに立ちすくむ。
その間に、力任せに(超能力の必要は無い)殴り倒せばよいだけだった。腕に付いたグローブには金属のガードが付いており ただ殴られるだけでもさぞかし痛いのだろうと思う。
たいてい、殴られた男は起きてこないので、実際かなりのものなのだろう。
わずか1分ほどで10人ほどのグループが壊滅する。
やはり、何が起こったかわかっていない男たちも意思を取り戻し、打ち合っていた敵であるはずのグループを倒した恩人ともいえるべき俺の方に銃を向けた。
勿論、もともとバイバイと手を振ってお別れするつもりは無かったので 対応としてはおかしくないのであるが、恩知らずであることは確かだ。
弾除けに使っていたドラム缶に両手を沿え一気に気を吐く。
自分の体を飛ばすことが出来るぐらいだから、かろうじて手で持てる程の物であれば投げ飛ばすことも可能だ。ただし、重すぎると飛ぶのは自分の体に成るのだが。
転がると表現するのか、飛ぶと表現するのかドラム缶は群れの中に飛び込んでゆく。
地面に落ちて跳ねるたびに僅かずつ、角度にして2〜3度づつ方向を微妙に変えて飛んでくるドラム缶に対処できずに、当たってもむなしい拳銃の弾を撃ち続けている。
人が当たった音を地面にこすれる音が相殺し、何人かが跳ね飛ばされる。
ドラム缶の後を追うように、突進しやはり力任せに殴り倒す。
同じく1分後にはその場に立っているのは俺一人だった。

周りの人たちは、誰もいない。そりゃそうだろう。街中で起きる事件にスーパーヒーローがいないのと同様に、バットマンに出ているような怪人は出てこない。今日も来て見ればやくざの抗争で銃弾が飛び交っている。そんなところを見物しているのは 機動隊とマスコミぐらいのものだ。
いたちの最後っ屁のような銃弾が、胸と左腕の何箇所かに当たったりかすったりした。
防弾チョッキの上からとはいえ、衝撃を吸収する機能は無く大男に力いっぱい殴られたような衝撃だ。
 
右手を軽く上げ、どうせ見えないヘルメットの中で顔を笑顔にし警察やマスコミに答える。
「正義は必ず勝つ! では、さらばっ」
斜め上に視線を移し、そのままジャンプする。
何も目標の無いところで、高さを決めるのは難しい。
右手を上げ挨拶している間に気をため、笑顔を作りながら周りのビルの窓を数える。1階、2階、3階・・・・
そう、建物の高さを推し量るため。
 
ビルの上を飛び越えたと見せかけ、ビルの上で休憩する。
実は息が出来ないほどの衝撃を受けたから・・・・
 
普段はしがないサラリーマン。筋肉質な肉体ながら細かい作業が苦手。本来なら力仕事のつもりで入った倉庫会社。実際の仕事は自動倉庫の制御が殆ど
せめて20%増の面積を持ったキーボードを支給してくれるならともかく、それで仕事の進みが遅いことぐらい理解して欲しい。
持ち運べるノートがいい、なんて若者は俺のこの拳で殴り倒してやりたい。これ異常環境が悪くなるのには耐えられない。
それでも我慢して書くのは「ケータイWATCH」への投稿記事。
事件に巻き込まれてPDAの液晶が破損しました。
修理代金4万円。
机の上には、「ケータイWATCH」の人気コーナー「Theクラッシュ」の粗品の山だけだった。
スーパーヒーローはつらいのである。