コンピューター犯罪対策室(作り話です。本気にしないでね)

「はい、プロバイダーのほうに本人を特定できるか確認します。いちおう、やってみます」
耳元で怒鳴られても判るときは判るし、判らないときは判らないんだよ。
コンピューターに関する犯罪対策室が警視庁に出来て、その後各県警にも色々な形で配備された。
コンピューターに詳しいというだけの理由で人が配備されても、そう目立った活躍が出来るはずも無い。判ってはいるけど、ネット犯罪 それも多くがオークションによる詐欺とワンクリック詐欺の問い合わせ以上に仕事が無い。
出来ることといえば、その時間の接続をチェックして 各接続会社に電話で連絡を取るぐらい。それぐらいなら わざわざコンピューター犯罪対策室なんておうぎょうな名前をつける必要は無い。
また、所内で問い合わせてくるのは私以上にコンピューターに詳しくない。
相手がどこから掛けてきたかを確認しろって言われても、電話のように通信記録がある世界ではない。多くは外部のインターネットカフェなんかや、個人が特定できても 無線LANの管理が甘く家の外から使われているようなばか者だったりするら尚たちが悪い。
「じゃあ、何分話していたら特定できるんだ!」って聞かれても電話じゃないんですから・・・としかいえない。
 
困るのは捜査する側に知識が無いことではなく、捜査される側に知識の無いこと。
電話でセキュリティの説明を、捜査員越しに説明しろっていっても無理な話。
そりゃー確かに犯罪者が悪いのは間違いないけど、家の玄関を開けてこれ見よがしに誰でも入ってくださいと門も窓も開けておいて、泥棒が入ったからすぐに調べてくださいといわれても。せめて鍵の一つも掛けてから言って欲しい。
実際の窃盗だったら、家に鍵を掛けてなかったことで自らの過失も認識できるのに コンピューターに関する犯罪だとそうは認識できない。
ウイルスに進入されたと電話を掛けてくるのも勘弁して欲しい。
確かに犯罪だが、そこまで面倒を見てたら倒れてしまう。それで、何らかのデータが抜かれたかもしれないと。
何のデータが抜かれたかまでは私には調べることも出来ないし、それ以上にそれでコンピューターが壊れたといわれても、復旧するのは警察の義務ではありません。
物を盗られたといっては、警察が盗られた物を弁償してたらあっという間に国家予算は倍になってしまう。
配属になる前に、コンピューター犯罪対策室の名前に釣られてプロファイリングの勉強なんかしたけど、それよりも「クレーム対応」の本のほうがずっと役に立ちそうだ
 
「殺人事件?」
思わず聞き返した。
これには理由がある。所轄は殺人事件には関わらないことが多いのです。
それも、操作が必要になるほど難しい事件は 本庁が担当する。
確かに各県警に捜査本部ができるが、拠点が出来るだけで実際の捜査は本庁がやるのだ。
それにもまして、電話対応以外この部署に入って外に出たのはトイレのときとご飯を食べるときと家に帰るときだけ。どうしても付け加えるとすれば、辞令をもらいに出かけたときぐらい。
この部署から、出かけることなど・・・・
 
3年も経てば、すでに現役でない通信手段の無いパソコンを持って出かけた。
ノートパソコンにも拘らず、電源が無ければ15分しか持たないことぐらいはご愛嬌だ。
捜査現場では、被害者は片付けられた後であった。
机の上には、血の付いたPCが置いてある。
生々しい血を見るのは、研修以来である。
一目見ただけで現場の不自然さに気がつく。
PCの下から 血が広がっている。しかし、明らかにマウスを握っていたと思われる形に血が飛び散っていない箇所がある。つまり、腕の形とマウスを握っていたと思われる手の形に飛び散る血が無い。それも方向から考えると被害者の方から飛び散っているにも拘らず PCの下には血がPCを中心とするように丸く広がっている。
それにも拘らず、隣の席のPCは後ろ側に血が付いている。
このPCは排気口が下にあるタイプ。だから広がったんだ。
色々な情景が頭の中を駆け巡る。液晶ディスプレイには付箋が何枚か貼られていて、ころころと水玉が転がるような丸い文字で「ぱすわーど」と書いてあることから考えても女性である。
この席の物だと思われる椅子には カーディガンが掛けてある。サイズはSブランドは安売り得よう反転の物である。また、色は明るい水色。恐らくであるが若い女性であると考えられる。
仕事中は外していたと思われる指輪がディスプレイの下においてあり、それは私でも知っている有名ブランド品。それもかなり高価な物だ。
年相応と思えないことから、この子はお嬢さんであるか あるいは男から買ってもらったものであろう。ただ、こんなところにおいて仕事をしていることから考えても虚栄心の高いタイプであろう。
やはり、何でも勉強していると役に立つ物だ。
「では、この事件の資料を見せていただけますか?」
「女子事務員殺人事件」
やはり・・・・・
「ところで、このコンピューターの型番ってどこを見ればいいの?」
年配の同行した刑事が聞いた。
「底面に型式シールが張ってあるはずです。これはメーカー・・・の」
「いや〜助かったよ じゃあ、帰ろうか」
老練そうな刑事が言う。
「へ?」
「しっかし、最近の女の子は判らんね。彼氏を盗られたとかで殺人を犯すんだから。それに、虫も殺さないような顔をしてそのコンピューターを振り上げて殴りかかったって言うんだから凄いよね」
型番が判らなかっただけだった・・・・・