愛してます・・・(作り話です。本気にしないでね)

「愛してます」なんて面と向かって言われたことは生まれてこの方一度も無い。
ところが、最近毎日欠かさず聞いている。最近ではこの言葉に食傷している。毎日メールでいやと言うほど届くから。
 
自分の文章力に自信があるわけではないが、人を開きさせない程度の文章は書いているつもりだ。Blogを書き始めたのが古かったこともあって、名前も知れている。
お陰で、人に頼まれて文章を書く機会も稀にではあるが与えられるようになった。
そして、メールアドレスを公開している以上、色々なメールが来る。最初に出したような「愛している」だったり「体だけのつきあいだったり」。
Blogを書いていて、一番へこむのはコメントで Spamとしか言えない内容が最も腹立たしく、その次はしたり顔の書き込み。
もちろん、知らないことは書き込まれても勉強になると謙虚に受け止めるのではあるが、知っていてもいえないことと言うのが大人の世界ではある。それを追求されることが最も腹立たしい。「したり顔で言うんじゃない!!」と言うことへの怒りは きっと自分に対しての物だろう。
知っていることによって自分の文章を曲げているストレスが怒りを増徴させているのだろうとしか思えない。
それでも、書いていけるのはファンと思われる人が毎日見に来てくれるからで それだけが頼りだった。
 
「愛してます」と書き込んできたのは一人のユーザーで、コメントするために書き込まれた個人情報は少なくとも会員登録されたユーザーだし、メールアドレスもscanを掛けると実在する大手プロバイダーのアドレスが書かれています。
信じてよいかどうかは、まるで日本語を話しているとは思えないような二十歳の女の子のBlogのアドレスまで書かれている。
勿論、ひとしきり調べるのは職業意識と言うよりは自分のBlogを読みに来た人を知りたかったからで、こちらから連絡することは無い。
まさか、そんなコメントを本気にするほど若くない私は、軽くいなしたつもりだった。
 
次の日、
「〜〜」読みました。〜〜ちゃんすごく素敵でした。私もあこがれます。
そのコメントをみて驚きを隠せなかった。
私が他のところに頼まれて書いている物など、当然堂々とどこかに発表しているわけではない。何故彼女がそれを知り得たのか?
あわてて自分の書いた文章が掲載されている雑誌を取り寄せてみたが、勿論名前など書かれていない。
文体の特徴は、勿論出来るだけ変えるように意識したつもりだったのだが・・・・
 
次の日のコメント
「100通目の、記念ファンレター送りました。一度OFF会に誘ってくださいね」
あわててメールフォルダーを開く。
確かに、彼女の書いたプロフィール通りのアドレスからのメールが届いていた。
内容は、
たわいも無い一日の出来事と、アルバイト先の噂から始まり、私の書いた文章のパターンが前に書いていた文章と似ているとか 最後まで読んでも特に内容らしい内容は計り知れない。
ただ、タイトルは「愛してます」で、当然の事ながら私のメーラーはゴミ箱に迷わず投げ込んでくれるメールだった。
当然、前日のものは残っていない。
念のために、Spamリストから除外して受信設定を行った。
 
その次の日にはコメントは無かった。しかし、メールは届いていた。
内容に関してはともかく、やはり私のことを知りすぎている。
とりあえずだが、「100通目のメールありがとう」と読んでもいない99通のメールの分も含めてお礼のメールを入れることにした。
20分足らずの間に私のBLOGにはコメントが帰ってきていた。
「ファンレターのお返事ありがとうございました。 もしかして愛が通じました?(笑)」と・・・・・
 
何度かメールを交換する機会があった。
顔も知らない不特定多数数百人が見ている物を書くことと、顔を知っている数人の前で書くほうが緊張もするが張りがある。
ましてや、毎日書いた物の評価も直接返ってくる。
毎日文章を書くことが楽しくなり、進んで頼まれた文章も書くようになった。
そして数ヶ月。
秋葉原で機の置ける人たちとのOFF会。
OFF会といってもいつも仕事をくれる人たちの集まりで業務連絡みたいな物。
 
紅一点、やり手のキャリアウーマンである編集者は、昔仲間内のアイドルで今はみんなに仕事をくれる女神様。今日のセッティングも彼女が行ったらしく、場所はメイド喫茶だった。
既にいい年の男たちが何人も連れ立って中に入ってゆくのを見て笑おうという算段だろう。
アクティブで魅力的な反面、豪快すぎて誰もが一人の物に出来なかった女性である。
「いらっしゃいませ、ご主人様!」
中に入ると、可愛いふりふりの服を着た少女たちが迎えてくれる。
戸惑いながら中に案内されて、無愛想な顔しか出来ない私は 〜のと枕詞の付かないただのコーヒーを注文した。居場所も無ければ どうしてよいかもわからない心境だった。
持ってきてくれたコーヒーは、あまりにも場違いな雰囲気に負けてあっという間に飲み干してしまい尚、居場所に困らせられることになった。
 
「あはははは 楽しんでる?」
一番奥の席に座っていたのは、編集者の女性。
構えたデジカメ越しにこちらを見ている。これでまたしばらくこき使われそうな気分・・・
こちらの席に来た彼女は「乙女の気持ち 一杯パフェ」を頼んだ。
男三人は、それを食べ終わるまでここにいなければ成らないことに気持ちが沈んだ。
「ところで、最近乗ってるじゃない?」
私に言った彼女は推理マニア。聞き出すまでは是が非でも話を終わってくれない。
「実は、可愛いファンが付いてくれてね」
と、嘘ではないが無難な答えを答えた。
「へ〜、結構可愛いところあるのね」
意地悪く笑う彼女。
まあるく広がるメイドのスカートの裾を持って、通りがかるメイドを止めた。
「先生に、コーヒーのお代わりを一つ」
にこっと笑いながら注文する。
持っていたお盆を胸に抱える形で腕を回し驚いた顔をしてこっちを向いた。
目線が合っても、目をそらすことすら思いつかず硬直した。
 
「お姉ちゃんこの人が?」
いきなりメイドの言葉ではなく、年相応の言葉遣いに変わった。
あまりの反応に私は正気に戻った。
 
二人が揃って私の顔を見ながら笑っている。
「お返事は二人で書いたんだけど、どれがどっちだと思う?」
つまり、愛してくれているのはどっちって事かな?