再び

駅の改札でふと足が止まった。今に始まったことじゃない。
思い出せば思い出すほど昔からあったことだ。つまらないことを思い出して妙な感じだ。
だいたい、それでも付き合いが続くのはうまいタイミングでフォローがあるから。
手のひらで踊っているだけなのかもしれない。と、思いながら振り返ってもう一度JRの駅のほうに戻った。
 
今なら広場のほうに行くのだろうが昔はあそこは汚い裏通り。待ち合わせる場所は反対側のベッキーズだけだった。
日曜日は外に向かうカウンターも一杯で座るところは無い筈だが、彼女と出かけてどの店にも座れなかったことは無い。そしてやっぱり。
地面だけを見ていても、通路に足がはみ出ているのが彼女。そして、今日はその向かいに小さなとがった耳のようなリボンも見えている。
テーブルにはすでに3人分のポテトとクロワッサン。コーヒーにはすでに飽きているのを知ってか 席から遠くはなれていても香りで判る紅茶だった。
 
あたり一面人が溢れている。
こちらに対して呼ぶでもないが、来るのが当たり前であるかのように済まして座っている。
手を振ることも、こちらに視線を送るでもない。
多少悔しいが、これも当たり前のことなので席に着いた。
妹さんには悪いことをした。せっかく奥に座っていて俺が座るべく荷物をよけてくれたのだが 俺はわざわざ彼女を押しのけて座りにくい奥の席に座った。
一つは、流石にこれ以上周りに騒がれたくなかったこと。
もう一つは、何故かいつもの習慣。
最初に学食のカウンターで隣に座ったときから、僕の指定席は彼女の隣だった。
向かいに座ったことが無いではないが、すぐに疑問を投げかける彼女に説明するのに 向かいに離れていては説明しにくいから。
でも、本当は射抜かれるかごとく強い彼女の視線をさえぎる為だったからかもしれない。
通路に足を出していても足癖の悪い彼女の隣は 非常に狭い。
まるで彼女と触れるがごとき状態である。
 
「遅かったじゃん!」
こちらに視線も向けずに彼女は言う。
「一帆おねえちゃんひど〜い」
恐らく隣に座らなかったので機嫌が悪かったのか妹がそういった。
ただ、彼女は聞く耳も持っていないようだった。
「何か言うことは?」
妹の助けも借りて彼女に聞いてみた。
「ごめん、悪ふざけが過ぎた・・・・」
相変わらずこちらは見ないが、照れくさそうな声だと信じている。いつもそうだから。
人に視線を向けないことが彼女にとっては珍しい。その上視線をそらしたまま喋るなんて彼女にとってはそうそうあることじゃないと思う。
それだけでもうなんとなく許してしまうところが弱いところ。
30過ぎて何を可愛いことを言っているんだと思うかもしれないが そう思うからしょうがない。あれでも、悪いと思っているから謝っているんだし。
それでも、僅か3分ほどしか続かず、すぐにもとの彼女に戻る。
 
「なんでそうなっちゃうの?」
彼女の妹にとっては、いつもと違う姉を見ているようで意外そうな顔をしている。
「継穂、長い付き合いだからよ。悔しかったらあんたも早くいい女になりなさい」
たしなめるように言う。
「どっこが いい女なのよ〜」
何故か普通の姉妹の関係で安心した。