Miss.Lの幼馴染4(創作です)

「で、無許可の映画撮影見過ごすだけならともかく 喜んで一緒に出演していた(でていた)人がいるらしいんだが、知っているか?」
いやみとしか思えない事をねちねちと言ってくる。
警察官と言えども特別な人間と言うわけではなく、特にこういったことに長けた人がどこにでもいるわけです。もちろん、私だけでなく廻り中から嫌われているわけなのだが そういう人に限って上へのゴマすりを忘れずに出世しているわけである。
ああいう人間にはなりたくないと思いながら逆らえないのは、やはり階級と言う重い鎖が掛かっているからである。
故に、私は一人っきりで戦わなければ行けない。
おかげさまでまじめ一辺倒で通っているので・・・・と言いたいところだがMr.Gに会った辺りから道を踏み外したようで 苦しい言い訳だけはうまくなった。
「すいません、映画だとは思わずに近づいたんです。参加したのも偶然です。」
 
「熱いっ!」
思わず握りつぶしたのは 目が覚めるだろうと入れた紙コップのコーヒー。
言い訳なんてしなければ良かったと後悔。
結果的にはお咎め無しと良かったわけだが、その百倍も辛いいやみを聞いたことに腹が立つわけである。
「そうかい、それは知らなかった お芝居と気が付かなかったから座り込んで腕を伸ばしたまま震えていたと言うわけだね。いや〜、現職の警察官がお芝居の戦いに怯えて座り込んだまま震えていたって事など私には信じられなかったもんだから 失礼なことを言ってしまったよ。失敬!失敬!」
これ以上のいやみと侮辱は無いような言葉。その上
「そういえば出かけるときに履いていったズボンと違うようだが、そういうことだったのか いや〜、最近のやつはあまり出っ張らなくて性能が良いらしいから なんなら試しに私からプレゼントしようか? 大人用のオムツを」
確かにズボンが違ったのは事実である。
地面に座り込んだズボンを無理やりに近い勢いで、Miss.Lに洗濯機に突っ込まれたので 何故有るかは聞かないで欲しいが そこにストックしている服に着替えたからであり、オムツが必要な恥ずかしい真似をしたわけではない。
いやみを一通り1時間も我慢してやったのに、ちょっと席をはずして帰ってきたら机の上には「たっちできるお兄ちゃん用」と書かれた紙おむつがあった。
思わず壁に投げつけたら、片付けの出来ていない荷物が雪崩を打つように崩れてきた。
今まで俺に同情的だった人たちの視線も冷たいものに一変した。
待ち構えていたかのように顔を出したやつは
「こどもは元気が一番!」
とにこやかに去っていった。
片付け終わってようやく飲むはずだったコーヒーも袖口からジャケットが吸い取った。
恐らく今日の夜にまたMiss.Lに奪い取られるのだろう。
二着しかないジャケットなので、明日着るものに困ることだけは確かだった。
 
おかげさまで机の上の書類は収集不能にまで崩れたので、安心して帰路につくことが出来た。と、いってもこのままMr.Gの所にまで戻る必要がある。
もちろん、ジャケットの洗濯を頼みたいわけではなく 「殺し屋さんいらっしゃい」な状況を警察官として看過できないからである。
たとえそれが芝居の撮影で、あまりに真に迫った芝居で座り込んでしまって その上おしっこ漏らしてズボンを履き替えたと思われようとも、正義は常に一つである。
握ったこぶしにはきっとこの町の平和があるような気がする。
心配なのは、いつも私の心配より平和の影響する範囲が大きく前回も地球規模の平和に関わることで どうも私のこぶしにはあまるサイズのようだ。
ただ、少なくともこの町ぐらいの範囲は自分で何とかしたいものだと思っている。
 
背の高いビルにあるエレベーターに乗る。
最上階だけは違うエレベーターになっているので迷う必要が無いが随分贅沢な話である。
音と供に、最上階に着いた。
鍵もなにも無いが関係の無いものが乗ることも出来ないようなセキュリティが存在する。
いつからか私は何の案内も無くこのエレベーターに乗ることが出来るようになっている。
ドアが開くと今日はお茶の匂いではなく、石鹸のにおいがする。
ドアを開けて覗き込むと誰もいない。
廊下からリビングに入ってそこから見ても誰もいない。
奥の廊下に開いたドアがあり、そこから声が聞こえる。
いつもよりトーンが1オクターブ高いMiss.Lの声が聞こえる。
風呂場では誰もそうであるが、湿度が高いことと反響が出ることで声が出しやすくなって自然と声が高くなるらしい。
もちろん、リラックスしていると言うこともある。
お茶の時間が延びたことは 駅から歩いてここまで来て渇いたのどには辛いところだが まあ、ゆっくり待つのも悪くないだろう。
ソファーはまるで眠りを誘うように大きく手を広げて私の体を包み込んだ。