[おはなし]お尻?!

カウンターに並んでコーヒーをすする。
学食にしては洒落たつくりだ。だが、所詮学食のカウンター 椅子と机の間が開きすぎていて全体的に間抜けにしか見えない。
それより、あまりにも隙間が多いのでカウンターに座りながら お互い半身を回すだけで向かい合って話を出来るつくりになっていること。
本当はテーブル関があいているといいのだが、説毎回が終わった直後の学食なんていっぱいで当たり前。
尚且つ、周りは恐らく同学年ばっかりでさっきの事件の目撃者。それが証拠に立ってコーヒーを飲んでいる人がいるのに俺と彼女の席の周り二つぐらいは誰も近づかない。
そうでありながら、時々覗くものも含めてかなりの視線が二人に注がれている。
おれはテーブルに向かっておいしくないコーヒーをすするのが関の山である。

突然、椅子をカウンターの反対側までくるりと廻して 軽く膝を曲げた椅子の足置きに乗っけたまま反対側の足をいっぱいに伸ばして 椅子の上に手を載せて振り返った。
僕の目の前には彼女の形のいいお尻が目の前にある。
テーブルの上のコーヒーに目線を置いていたはずなのだが、彼女の一挙手一投足を目が追いかけていた。
それ故に、突然の行為に誰よりも面食らった。
「お尻よ お尻!!」
肘まで見える腕に、長い指 薄いオレンジ色が無造作に塗られたような爪までが一直線に伸びて自分のお尻を叩く。
「ぱんぱん」と音を立てて。
 
「はい?」
十分な間を取ってというのは正確な表現ではない。しゃべれるまでにかかる時間が十分な間を生み出したのが正しい。それでもかろうじて出来た返事はその程度だった。
彼女もどうしていいかわからないまま、叩いている手を腰に当てて話すきっかけを失っていたが その言葉をきっかけに話し出した。
「このお尻、綺麗でしょ?!」
 
周りの視線が痛かった。
言葉が通じる距離にいてる人でも会話の内容はわからないだろう。なんせ俺ですら判らないんだ。
ただ、説明会でほっぺたを張られて、仲良く膝突き合わせてコーヒー飲んで 女性がお知りを見せて話しかけている姿をどう見られているかなんて 俺だって下世話な想像をする。
誓って言ってもいい、その通りで説明されないままこの状況に置かれたら下世話な想像なんて頭に浮かぶわけが無い。
まあ、確かにこのヒップは魅力的である。
無駄な肉付きが無く、かなりシャープな足に対してひざを軸に曲げた足に対して緩やかな曲線を描く不思議なヒップのラインがジーンズの上にくっきり現れている。下世話な話だが、その中まで透かして見えているようだった(実際に一部ラインは透けていたりして・・・ ごほん! そのときはそんなことを考えてなかったと思います。)
実際、生まれてこの方数少ない経験ながら一番のヒップだった。
「そうですね」感情のこもらない答えが精一杯だった。
 
「詰まらんやつ」
半分憤慨したかのように 突き放す彼女。
「ギブアンドテイクが私のモットーなの。私の疑問を解いてくれた 故に私もあなたの疑問の答えを出す。」
俺の問いってなんだっけ?
シトロエンに乗っているのは、車の車種や詳しい事を知ってた訳じゃないの。ただ、個性的なヒップが私みたいなのょ。」
「そういうわけだったんですか?」
僕が最初に聞いた車に対する質問に答えたわけだった。
「これで二つ」
次の彼女の言葉も意味不明なものだった。
「私は二つの問いに答えた訳、だからここのコーヒー代はあなた持ち」
彼女なりのギブアンドテイクの理論らしいが、明らかに飛躍した押し付けだった。
つまり、かなりそれも度の付くあつかましい性格である。うっすらとこの大学にいる限りつきあいそうな予感がすでに此の時にした。
颯爽と椅子を廻して立ち上がった。
カーディガンをひるがえしながら・・・
 
「あっ、背中!・・・・」
すばらしく速く動くものである。
彼女の腕は私の頭に巻きつきやわらかい手が私の口を押さえた。
「うるさい、黙ってろ!」
どすの利いた声でしゃべる彼女のほほが少し赤かったことに気が付くまでには修行が必要だった。
肩に感じる彼女の胸の感触に、体中の神経が総動員されていたからであった。
喋ろうにもそんなわけで 声はでなかった。