伊藤探偵事務所の爆発15

未来さん:「では、このボトルを飲み終わったら部屋に帰りましょう」
ワインのボトルを持って言った。
肘を付いていないと、グラスを支えていることができなかった。
辛うじて、テーブルの上に皿と皿の隙間をぬって肘を付く場所を見つけた。
「お願いします」
注いでもらえても、きっと飲めないだろう。
半分ほどまだ残った大き目のグラスにワインを注ぐ。
僕の手が震えているのか、未来さんの手が震えているのか ワインはスムーズにビンから出てこずに脈動的に少しづつ出てゆく。
時々、ワインボトルの口とグラスが小さな音を立てる。
未来さん:「すいません」
「家きっと僕のほうが・・・」
“ばきっ”
初めて、ワインボトルの砕ける音を聞いた。
「大丈夫ですか? 未来さん」
未来さん:「ご・ごめんなさい わたくし」
「手は、大丈夫ですか?」
ワインクーラーに入っていたボトルなので、ボトルをナプキンで包んで持っていた。
手は大丈夫だろうか?
布の奥にある手の状態は確認できなかった。
慌てて、飛び込んでくるボーイ。
ナプキンごとボトルを未来さんの手から、恐る恐るボーイが取った。
「手は、大丈夫ですか?」
僕の問いかけに、そんなことは気にならないかのように慌てる未来さん。
もともと、おしとやかな人だから 慌てる姿が新鮮で可愛かった。
すでに重量物と化した瞼を、気力だけで支えながら思った。
ワインは幸いにも、大きめで机の上の僕と未来さんの間に入っていた 籠を載せたパンをサーブするための大皿の上にこぼれただけだった。
うまく注げてなかったことが幸いしたようである。
僕は、忘れていた自分のグラスを持った手を引き下げた。
急ぎ皿を片付け始めるボーイ
未来さん:「新しいボトルとグラスを。それと、掛かったかもしれないから拭くものを用意して」
職業柄か、的確な指示をボーイに出す。
「ボトルにひびでも入っていたんですかね? ずいぶん古そうでしたからこのお酒」
ようやく、僕の言葉を聴く余裕が出てきたようだ。
未来さん:「では、次はもう少しあたらし目のものにしましょう」
にこっと笑って答えた。
未来さん:「それよりも、ワインはお服にかかられませんでしたでしょうか?」
「はい」
やはりまだ慌てているようだ、Tシャツを着ている僕の服にかかるにはかなり飛び散らないと・・
新しいワインが出てきて、改めて僕のグラスと未来さんのグラスに注がれた。
未来さん:「興が冷めましたか? 改めて乾杯しましょう」
「今日は何回目ですかね?」
未来さん:「なんに乾杯しますか?」
「じゃあ、生まれて初めてワインを飲んだ、パン皿に 乾杯!」
改めてワイングラスに口をつけた。
今の事件で少し気がそれたのか、一口分のワインを飲むぐらいの余裕が気持ちにできていた。
未来さんはグラスを半分ぐらい空けた。
 
王子:「ふあ〜」
僕は目を覚ました。
“こんこん”ドアがノックされた。
王子:「入れ」
男:「失礼いたします」
王子:「いいタイミングだったな」
こちらの問いかけに答える気はないようだった。
この部屋には、カメラがセットされていて こちらの行動を監視しているのは確認できた。
男:「お食事は食べられますか 粗末なものですが」
王子:「もらおう、できれば粗末でないものをな」
ドアが開き、女性が食事を運んできた。
そして、ベッドサイドのテーブルの上において 外に出て行った。
王子:「昨日の監視役と違うのだな」
男:「はい、われわれは人材だけは豊富ですので」
王子:「同じ変わるなら今の彼女にしてくれたら良いのだがな」
男:「王子様にはお目汚しです」
王子:「お目汚しは、お前のほうだと思うが」
男:「では、言い換えます 目に毒かと存じます」
話をしても得るものは無さそうなので、食事を始めた。