Product-X わずかコップに溢れるバッテリー

 
当然、該当する会社もない ただのフィクションです。よく似た話は現実にあるかも
しれませんが、よく似た話も詳しく知っているわけではないので完全な作り話です。
 
発売日には、多くの人が並んだ。
その手のひらに隠れるほどの小さなデバイスに多くの人が並んだ。
首都たる東京では 予約をするもの、店頭に並ぶもの、噂だけなら大ヒット商品。
宣伝効果も考えれば 一つでも多くの商品を用意した店舗にテレビの取材が来る。
売店は圧力をかけ商品を手にする。そして、予定数未定のデバイスの予定数が発表
され 余計に発売日に手に入れたい人たちを煽る。
公式サイトの受付は、公式サイトのあまりにも多い注文にあっという間にパンクした。それは、発売日に手に入れる手段を大きく制限することになってしまった。
発売日に手に入れるためには店頭に行くしかない。
東京の販売店では発表された数量、第二の都市である大阪では用意できる発売数も未定の状態。一説には新宿店など目立つ店舗には他の店舗の入荷数を廻してでも発表した数量を確保したためで、地域によっては同じ販売店でも一台の入荷もない、正確には入荷はあったもののその店舗のための入荷でなくなっていると言った状態だった。
発表されなかった店舗は、優先的に他の店舗に廻される恐れすらあったということ
だったのだろうか?
それでも、入手する方法は並ぶしかなかった・・・・
「できれば、2台手に入れたい」
正直な気持ちだったが、一台の入手も怪しい状況では贅沢な望みだったかもしれない。
「もし、一台も入手できなければ・・・」
その可能性も少なくなかったが、とにかく並ぶしか手がない以上ならばざるを得ない状態だった。
決して運の悪いほうではなかった。
いくつかの手段で、実物を見る機会も展示会を含め与えられた。
寸法は試作機の段階では判っており、恐らくの最終形から作られた収納ケースは ゴム留めのアイデアが光った、何よりも商品の発売日にほぼ揃えられたという事がもっとも大きなセールスポイントと成る筈だった。
間違いないとは思いながらも、実際の製品版に合わせて見るしかなかった。
入手できたことは、もっとも大きな成果だった。
「寸法はOKだ!」
一つ胸を撫で下ろした。
「一つ」、そう 手に入れた商品はケースのサイズ合わせの為だけに手に入れたわけではない。もちろん、個人的に電気を入れて試すわけではあるが、個人として楽しむ為には使えないことは予想されていた。
これは、新しい商品の為の・・・・・
 
パケット☆ゲームス(注意:よく似た他社と間違えないように 特にPocketなんとかさんとは・・・)は、大手とはいえないPDAのアクセサリーベンダーであり、企画輸入をしている会社である。
発売メーカーに圧力をかけて発売前のデバイスを、アクセサリーパーツの為に供出してもらえる規模でないことだけは確かである。
でも、だからこそユーザーの視点に立った商品を出すことが出来るわけである。ただ、時期を外した商品は損が出ることだけではなく購入するユーザーの為にもなって
いない事を考えても望ましくないと思っている。
本来なら、自分の規模から考えても企画するべきでないかも商品の完成のためのサンプルとして出来る限り早いタイミングで、本体を入手する必要があったのだった。
日本のメーカーが、日本のユーザーのために設計し、日本の土壌で最も有効に働くデバイス、それも全てが日本専用モデルとなると 過去にもそう例を見ないPDAだった。
故に、期待は大きく 人気も前述の通りの状況だった。しかし、それ用のアクセサ
リーとなると話は大きく変わってくる。
世界規模で、日本で少量しか売れないデバイスでも開発されたパーツは市場を世界規模で持つ事に成る。ゆえに日本での販売数が見込めないアクセサリーも発売されるのである。
逆を返せば開発した商品は基本的に自分のところで売れなければそれで終わってしまうわけである。
発売時の人気も、永久に続くわけではない いつまで売れ続けるか判らない。専用の商品の開発はある意味賭けの部分が少なくない。ただ、このデバイスを最初に触った時から、試作品の時から、もしかしたらスペックを見たときから 間違いなく「欲しいと」切望するユーザーの声が 耳鳴りのように聞こえてきていた。
 
二つの壁がある、すでにメーカーは決まっていた。「有限バッテリー」は、今まで多くの実績のあるバッテリー製造メーカーである。
今までも、DELLのデバイスでは、1100mAのバッテリーに僅かに厚みを増やすだけで1800mAまで増量したバッテリーなどで、ただ互換バッテリーを作るだけではない、独自の商品を企画する力のある会社である。
ただ、バッテリーの増量は言葉で書くほど簡単な話ではない。
機種によってバッテリーケースのサイズが違う。それでも、長方形で均等な厚みのケースにリチウムポリマーを詰め込んだバッテリーとなる。
ところがそういったものの登場を拒否するかのように 細長い厚みの変化する台形のケースである。
ケースの中の厚みの変わらない部分だけにリチウムポリマーのバッテリーを詰めたのでは容量増大どころか、標準の容量にも満たない。
安価な互換バッテリーメーカであればそれも良いだろう。現にデジカメのバッテリーの一部には標準より容量の小さなものを互換として販売もしています。
しかし、これはユーザーの求めているものでは無い事は間違いない。
そんなものならわざわざ作る必要は無かったのである。
もう一つはバッテリーの密度の問題。
リチウムイオンバッテリーは金属製のバッテリーケースの中に、どれだけ中身を均等に詰め込めるかでも容量は決まります。厚みの変わるようなバッテリーケースに充填するためには十分な強度を持ったケースを用意しその中に圧力をかけて充填するしかない。
バッテリーケースにも大きなノウハウがあり、強度を上げるのにただ、ケースの厚みを厚くするだけであれば、容量も減るし何より重くなる。
容量は増えたが増えた容量分だけ重さが増したのでは、うれしさが重さの分だけ減ってしまう。
手放しでユーザーが喜んでもらえるだけのバッテリーにはならない。
20%の増量。
標準バッテリーを使っているユーザーが「バッテリー警告」の文字が見たときには勿論まだまだ大丈夫。Wifiが自動的に切断される状況になっても警告はまだでない。
自動的にシャットダウンがかかるときに、ようやく最初の警告が出るような、その余裕が作れれば・・・・ それが望みだった。
 
2005年11月25日、本体が発売された。
それからは時間との戦いだった。
勿論、それ以外の障害との闘いこそが最も険しいものだった。しかし、それは最もユーザーに遠い問題であり、苦しむのは一人の問題だった。
2006年4月半頃、香港の展示会場で大事そうに箱に詰められた二度目の完成品に近いサンプルを目にした。
箱の中から出てきたのは、PDA本体 裏側のケースを開いて中から出てきたのは「有限バッテリーカラー」の本物とみまどうバッテリーだった。
外観からは、既に販売できる完成度だった。
いろいろな質疑応答を終えて、既に完成の域にある状況だった。
「まもなく出荷です。」
まったく同じサイズとはいえないが、本体から工作誤差ほどの厚みの増加で済んだことは良い知らせだった。
誤算ともいえる利点もあった。
ケースを製作する途中でいくつかの試作を重ねてゆく中で、取り外しの難しい裏蓋は、バッテリーが干渉する事によって発生するということがわかったことである。
勿論、試作品からは干渉する部分も削られ純正品からの改良も行われた。
容量は1900mAと25%のUpも計られた。
予想以上の容量の追加に成功した。
帰る航空機の中では、まもなく届く商品の事を考えていた。既に、販売の告知はされていた 既に帰った頃には話題が日本中をめぐっているだろう。
 
一週間後残念なニュースが届く。
「出荷が遅れそうだ」という連絡が。
告知に多くの問い合わせが来る。みんな楽しみにしているのだ。
勿論、喜んだわけではない。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
あちこちでもその状況がニュースとして伝えられる。
これだけの反響は、商品が売れることを感じたわけではない。「この商品はやはり必要とされていたんだ」という気持ちが強かった。
間違いの無い商品を出荷するからこそ納期が遅れることもある。辛抱強く出荷を待ち続けた。
開けられた段ボール箱から商品を取り出し、丁寧にエアパッキンで包み大きな封筒に入れる。
送り状を発行して貼り付けてゆく。
1本、2本注文に合わせて梱包する。

机の上はとっくに溢れ、床にもバッテリーの出荷の封筒が並ぶ。
開けた箱を片付ける暇も無い。
連休中にはみんなの手元に届くだろう。
玄関のベルが鳴る。
「びくっ」と肩が震える。
違った、運送便の運転手じゃない。
「引き取りに来るまでにどれだけ梱包できるだろう?」
ああ、サイトに商品の紹介を上げなければ・・・・・
 
暑い夏の日、焼け付く日差しに体を焼かれ耐え切れない喉の渇きを癒すために、喫茶店に入って頼んだオレンジジュース。
清涼感のある透明度の高いクリアーなカップにはたっぷりの氷。
がっつく気持ちを抑えて、ストローでかき回して氷の音を楽しみ そして、おもむろに飲み始める。
一口、二口、三口目・・・・・、思った以上にはやくに無くなるオレンジジュース。
もう一口あればいいのに・・・・
一緒に出てきた不味い水の味で口を洗って店を出る。
もしも、溢れるほどの量 表面張力で満たされたコップ一杯入ったオレンジジュースが出てくれば・・・・
もう一杯頼むとか、量の多いものを頼むのではなく 貧乏くさいといわれるかもしれないけどなみなみ注いで出して欲しい。そんなバッテリーだった。