[おはなし](最近最後まで書いてないな・・・・)目からあふれる涙

飛行機の通路側から見たら窓のほうに向かって首をたれて座る男性。
人の肌とは思えない白い顔色は首筋まで繋がり、こちらから見える方には水色に大きく光る涙・・・・
「その格好でどうやって入ったの??」
涙まで流している顔の男は楽しげな声で答える。
「タラップから」
地方の空港では未だにサテライトゲートは無く、滑走路にタラップがやってきて搭乗する。
だがそんなことを言っているのではない。
「じゃなくて、どうやって出国したの?」
恐らく理解しているのだろうが、わざと聞こえないフリをして何も答えない。
「パスポートを見せてくれる?」
返事もせずにかばんの中を探すのでもなく、右腕を振り上げた手の先 人差し指と中指の間に挟まっているのは日本国籍のパスポート。
真ん中にICカードの入った新しいものだから表紙から二ページ目にある写真を見る。
人の顔色とは思えない真っ白な顔に赤く塗った目の周り。
一回り大きく犬のような大きな鼻に、ほっぺたには大きく水色に光る涙。
首の回りも白く、襟は肩ほどの幅のある尖った服で 緑とシアンのストライプの服が人並みはずれて派手である。
「ほっぺたの涙が逆!」
こちらから見えるほっぺたは顔の右側、写真の涙のあるほっぺたは左側。
明らかに写真と違う。逆になっている。
「うっそ〜〜!!」
席から立ち上がり私の手の中にあるパスポートを覗き込む。
「えっ! えっ! えっ!」
白い手の甲で何度もパスポートの上に重ねるかのように隠してゆく。
つめは尖って長くオレンジ色のグラデーションに塗られている。
長袖のシャツの袖は二筋の紐が付いていて、その先には白いビー玉ほどの直径の毛玉が付いている。
袖はラッパ型に開いていて、まるでピシッとアイロン掛けされたかのように尖った星型の袖が手を隠すほどの長さで付いている。
「お客様!」
睨みつけるような視線で、ショートカットで濃すぎる化粧すらも許容してしまうほど若さと清潔感にあふれたキャビンアテンダントからは想像できない、地獄の釜の蓋が開いたと棚触れてくるかのような低い声で嗜めるように、と言うより憎しみをこめるかのように言われた。
「あはははは・・・・すいません」
装飾が付いて、私の隣に座っていても顔に刺さるんじゃないだろうかとすら思われるほど大きな張り出しの付いた服を着ているのにその背中を小さくして謝った。
頭にかぶっている大きな角が二本付いたきらきらとラメの光る防止を脱いで恭しくお辞儀をした。
白々しいオーバーアクションと思っていたらそれすらも間違いだった。
腕を組み見下げるかのように視線を変えたアテンダントに ゆっくりと顔を上げたときには顔の表情はともかく 唇の端が上に上がって笑いのこぼれている顔だと判る。
表情をより一層深刻にした所に、帽子の中から飛び出す下段に生えているかのような黄色い花が花束のように出てくる。
明らかに奉仕の深さより長い茎が付いていて飛び出してきたかのようだった。
見下げる視線を作るために後ろに反り返る姿勢で驚いたアテンダントはそのまま通路を挟んだ反対側の座席に座るお客の膝の上に尻餅をついた。
「し・失礼いたしました お客様」
慌てて取り繕うアテンダントだったが、瞬時に気持ちを切り替えたようである。
こちらに明らかに繕う欠片すら見せない怒りの表情で今度は上目遣いににらみつける。
「ふん!」
とても接客業に付いている人のそれも憧れのエアアテンダントの言葉とは思えないよく通る低い声で横を向きながら言った。
そして、そのまま足音などしないはずの通路を、ずかずかと足音を立てながら行ってしまった。
全ては私を間に挟んで行われた会話(と言っていいのかどうかは別として)だった。
個人的にはアテンダントに同情は隠せない。しかし、私の事を同類と思い睨み付けられるのは勘弁して欲しい。
当の本人は、まるでアメリカ人のように肩をすくめて両手を開いて困ったポーズをとる。
原因がわかっていないようだ。
そして、自分の右のほっぺたを指差した。
ほっぺたには青く輝く涙が、そして反対側の手で指差すパスポートの写真の右のほっぺたにも青く輝く涙が・・・・
パスポートすらあてにならないマジックの達人だと言うことを忘れていた・・・・
「そう、ピエロはサーカスの全ての芸が出来なければいけない!」
私の考えすら読んでいるようだった。
「その顔のままイミグレしてきたの?」
パスポートとたとえ同じ顔だとしても、眼鏡すらとって確認する今の入出国手続きをこのまま通り抜けてきたとは思えない。
「や〜ね〜、ちゃんとお化粧は念入りにしたわよ」
もうこいつとは議論すまいと思った。