伊藤探偵事務所の憂鬱 68

KAWAさん:「やまさん、この写真は何?」
壁には、若い軍服を着た男の写真が並んでいる。
KAWAさんは食べ物をほおばりながら聞いた
やまさん:「それは俺が殺した息子の写真さ」
KAWAさん:「お子さん沢山!!」
どうも、このメンバーは死に関する興味が薄いようで そういった言葉に対する反応が薄い。
aireさん:「いわゆる、あれでしょ 自分が育てたパイロットが沢山死んで 人生を儚んで楽隠居してるんでしょ。 あれだけの腕がありながらポンコツに乗って」
さすがにやまさんの顔も怒りに赤くなった。
やまさん:「なに!」
所長:「まあまあ、口は悪いですけど 嘘は言わない人ですから」
所長、それはフォローになってない。
「おじいさん、そういう意味じゃないんです」
どうフォローしていいか判らなかったが、口から言葉がでた
やまさん:「いいんだ若いの、その通りだ・・・・」
顔から怒りが消え、ただの老人に戻っていた。
arieさん:「なんでそうやって年寄りの振りをするの」
やまさん:「見ての通りの年寄りじゃないか」
含み笑いをして答えた。
arieさん:「本物の年寄りは私達を迎えに来たりはしないものよ」
KAWAさん:「飛行機に乗っているときは子供みたいな目だったよ」
arieさん:「枯れてないって証拠よ! いつまでも逃げてんじゃないわよ」
老人は言葉を失っていた。
「おじいさん・・・・・」
いたたまれなくて僕が口を開いた。
やまさん:「久しぶりにわくわくしたな、そういえば」
arieさん:「あなたが悲しむのはあなたの勝手よ でも、悲しんで良いのは生きてる人だけよ。うじうじ死んでいる人間に悲しむ資格は無いわ。あなたが殺したって あなたが後ろから銃で撃ち殺したわけじゃないでしょ あなたと一緒に飛び立って敵に撃ち殺された人 操縦の失敗でおちた子 もしかしたらあなたをかばう為に死んだ子だっているかもしれない」
やまさん:「そうさ、それが俺の自慢の息子さ」
壁にはおじいさんそっくりの子供の写真がかかっている。
「おじいさん、この子っておじいざんの・・・・」
arieさん:「人は一人では生きていけないの、逆に言えば人は人との付き合いを失ったら死んでいるのと一緒なの。」
やまさん:「ちげえねえ、俺は今 死んでるな・・・」
arieさん:「何よ!それ」
KAWAさん:「お姉さん」
立ち上がるarieさんをKAWAさんが抑えた。
arieさん:「あんたの息子は死んだあんたを助けたの? それじゃあ犬死じゃない」
感情の高ぶりを抑えられないarieさんが言った。
所長:「やまさん、貴方は忘れているんだ 死んでいった人たちが貴方に何を託したか」
やまさん:「人の家に突然やってきて 人の気持ちをごちゃごちゃかき回しやがって」
一番触れられたくない傷口に からしを塗りこむような言葉にやまさんがとうとう怒り出した。
やまさん:「ごちゃごちゃ言いやがると この家たたき出すぞ!!」
KAWAさん:「こわーい」
両手で頭を抱えてしゃがみこんだ。
そのしぐさに山さんは言葉を止めた。
arieさん:「そう、そうでないと 貴方にも聞こえたはずよ 貴方の息子からの貴方へのメッセージ “生きて”って」
arieさんの顔がマリア様に見えた。
しばらくの重い沈黙が続いた。
やまさん:「俺に何をしろと?」
arieさん:「勝手にすれば したいようにするのが生きてることだから」
やまさん:「そんだけ言っといて 突き放すのか」
やまさんが笑い出した。
空気の層が音を立ててうろこの様に剥がれ落ちてゆくのを感じた。
所長:「取り合えず、一緒に遊びませんか?」
KAWAさん:「あそぼ あそぼ」
KAWAさんがやまさんの手を取って言った。
やまさんに言っているようで 言葉の中でarieさんの悲しみが見えたような気がした。
arieさんの過去には何があったんだろう?
僕はそちらが気になって仕方が無かった。
やまさん:「ところで嬢ちゃん、さっきの言葉意地でも一つだけは訂正させてやる。俺のことはいい だが、俺の愛機をポンコツだと ポンコツかどうか実戦で見せ付けてやる!」
怒ってはいなかった。嬉しそうな少年の目をしていた。
arieさん:「あたしの次ぐらいの実力は見せてもらいたいわね!」
やまさん:「俺は、山の魔女どもを手なずけてきたんだ次はあんたが相手でも外さない」
arieさん「あたしを田舎の魔女と一緒にするとはいい度胸ね・・・・・」