伊藤探偵事務所の憂鬱 67

「あの、お知り合いさんですか?」
aireさんに聞く度胸が無かったので KAWAさんに聞いた。
KAWAさん:「やーねー、もばちゃんも知っているでしょ・・・」
やはり、記憶に無い。
さっきの車の時を言ってるんだったら、どこから見てたんだろう?
KAWAさん:「飛行機の運転手さんじゃない」
「えっ、」
驚いて、その場から逃げようとしたが足がもつれて動けなかった。
所長:「どちらの政権を 支持なさっていますか?」
こちらの事など何も無かったかのように 所長が老人に聞いた。
思うに、所長はただ鈍いだけなんじゃないだろうか?
老人:「政権? 俺にそんな難しいことが判るか!! 俺は国境を断りも無く越えてきた馬鹿者を取り締まりに行っただけだ 見てのとおりさ」
所長:「じゃあ、取り締まられますか?」
老人:「俺は誇り高き空軍だ、地面を這ってるようなやつは本来俺の担当じゃない」
arieさん:「それも、辞めたんでしょ」
老人:「なに?」
元々、機嫌の良い話し方では無かったが 一層気分を害したようだ。
KAWAさん:「さっき言ったよ」
老人:「ちげえねえ」
笑いながら言った。
所長:「失業なさっているなら、私どものガイド役として手を貸していただけませんか?」
老人:「特殊部隊の人とお手手繋いで仲良くするほど愛国心は捨ててねえぜ」
arieさん:「あら、あたし達は特殊部隊じゃないわよ れっきとした探偵よ」
老人:「探偵? そんなものが信じられるか。ありゃー都会のひよっこどもに出来る芸じゃねえ」
arieさん:「ほめてくれてありがとう」
所長:「2〜3日前に新聞で日本から探偵が国賓で来たってやつ見ませんでした?」
老人:「そういえば、間の抜けた顔のやつが来てたな」
所長:「お褒めいただきましてありがとうございます。それが私です」
老人:「へっ、そういえば見たような顔じゃねーか」
arieさん:「伊達や酔狂で 余計なことに首を突っ込む馬鹿がいるので 大変なのよ」
老人:「じゃあ、お前さんたち 助けに来たのか」
arieさん:「いやいやね」
老人:「そりゃーいいや」
老人は笑い転げてしばらくの間話が止まった。
老人:「で、何が望みだ? 家に帰りたいのか?」
所長:「新政権の転覆ってのはどうでしょう?」
arieさん:「また始まった」
KAWAさん:「国政干渉はいけないんだ〜」
所長:「でも、あなたの望むところでしょう KAWAさん?」
老人:「おれは、そこまで手は貸せないぜ どちらも支持しねえからな」
話が全てわかるわけではないが老人は手を貸してくれるようだ。
所長:「いえいえ、歩かなくて済むだけで十分です」
KAWAさん:「ごはんも〜」
老人:「大したもんでなければ食わしてやるよ 腹いっぱい」
「そんなこと言ったら駄目」
初めて老人に口を開いた。いきなりの言葉に戸惑ったようだ。

老人の家は森の中にあり、一人住まいだった。
老人の言葉で言う“わがまま”だから一人でいるそうだ。
出来るだけ、日常の仕事に手を取られたくない様で一ヶ月程度の食料が用意されていたので不足することは無かった。
KAWAさん:「おじいさんはなんて名前?」
所長:「そういえば、お名前もお伺いしてなかった 私は伊藤と申します」
老人:「新聞で見たよ ほれ。おれは・・・・あだなで呼んでくれ照れくさいから “mountains”って呼ばれてた。砂漠の国では珍しい山岳警備隊だからな」
KAWAさん:「ってことは・・・・・・“やまさん” でいい?」
arieさん:「何で、あだ名にあだ名を付けるのよ 大体複数形の“S”はどこに行ったの」
話の論点がずれてきた
KAWAさん:「だって、探偵物といえば“やまさん”でしょ! 可愛いいし」
老人:「おれはそれで良いよ、意味はわかんねえが 血なまぐさく無くていい」
各自の自己紹介をして、今までの経緯を話した。
やまさん:「聞けば聞くほど信じられない話だが、まあ、嘘を言ってるとは思えねえから信じよう。で、俺に何をさせたいんだ?」
所長:「どうにか、今の政権の首根っこを押さえる手は無いですかね?」
やまさん:「ははは、ストレートな 実は俺のところでも情報が来てないんだ。だから王宮だけの事件だと思う。そこだけを抑えて 指揮系統を握れば押さえ込めるとは思うが? おめえじゃあ駄目だな」
所長:「どうしてですか?」
やまさん:「頼りなさ過ぎる 話を本気にしないだろう ははは」