伊藤探偵事務所の混乱 55

KAWAさんがホバーと言っていましたが、いわゆるホバークラフトの事だったらしい。
一般的な観光地用のものと違い、小さなフェリーぐらいのサイズがある。
kilikoさんはああ言っていましたが甲板にはヘリコプターも乗っていた。
船は動き出したが、先ほどとは大きく違い 景色の流れから行くとかなりの速度なのですが、揺れは殆ど無かった。
まるで、風の無い海を渡るようだった・・・この音さえなければ。
船の上は、胸の筋肉ごと揺らされるような振動がある。
導かれるように、キャビンの中に入った。
キャビンの中には振動は伝わってくるが、耳の鼓膜を直接押されるような圧力のある音は聞こえなくなった。
中には、シャワーぐらいはあるようで女性陣は中に引っ込んでしまった。
「kilikoさんありがとうございます」
kilikoさん:「いえ、お嬢様のためでございます」
さらりと言い放ったkilikoさん、手際よくあれこれと作業乗組員に振り分けてゆく。
僕たちにも部屋が用意されてシャワーを浴びてくるように勧められた。
あまり、シャワーを浴びたい気分ではなかったが、船の中に入って、上着の前のジッパーを開けただけで一握りほどの砂が地面に落ちたので せめて服の着替えだけでも必要かと思い従った。
部屋に入ると、質素な小さなコンパートメントでベッドの上には着替えが用意されていた。
シャワーを浴びたら、後で掃除する人が気の毒になるぐらい 床には砂が溜まった。
水がシャワーに入っている間に流れなくなるのではないかと思うぐらいの量であった。
頭の中も、指を通すと指にザリザリした感触が伝わってきた。
時間がわからなかったので、急いでシャワーを早くに終えて着替えを始めた。
ベッドの上に置かれた着替えを取り、着替えて解ったが、着替えの下にはホテルのような二つ折りにしたメッセージカードがついており、そこには
「食事になったらお迎えをよこします、それまでごゆっくりお休みください」
とかかれていた。
どうしていいか解らなかったのと、結構疲れていたので髪の毛も乾かさずにそのままベッドに倒れこんだ。
気が付いたら夢の世界の中にいた。
なにか、大きな塊のような乗り物が迫ってきて、そのまま押しつぶされるような夢を見たような気がする。
KAWAさん:「もばちゃん、モバちゃん」
KAWAさんが馬乗りになって、僕を起こしに来ていた。
KAWAさん:「ぷぅっ、モバちゃん変!!」
「へっ?」
鏡を指差されて見たら、頭が完全に爆発した状態だった。
あっ、手で慌てて寝かしつけたが、寝かしつけても寝かしつけても立ち上がってくる。
「KAWAさんちょっと待っていてくださいね」
そのまま、バスルームに飛び込んで、頭からシャワーを浴びた。
よく考えたら、部屋で待っていてもらう必要も無く、すぐ行きますからと先にいってもらえばよかった。
なにも、こんな所で待っていてもらわなくても。変な風に思われたらどうしよう?
などとつまらない事と、急がなきゃと体を拭くのも適当に頭なんか濡れたまま ズボンも引きずったままバスルームから出た。
出たとたん、ベッドの上で僕の上着をたたみながら腹を抱えて笑い転げているKAWAさんがいた。
「どうしたんですかKAWAさん」
右手で、殆ど拭けてない頭を拭きながらKAWAさんのほうに歩いていった。
上目遣いにじっとこっちをみるKAWAさん。
笑いは止まっていたが、モナリザとは逆に目だけは上目遣いに笑っていた。
「KAWAさん、どうしたんですか?」
そういう目でで見られるとどきどきするのだけど、気取られないように 出来るだけ平静を保ちながら聞いた。
KAWAさん:「くっっっっ」
目線を下に移して、やはり堪えきれないように笑っている。
「KAWAさん?」
本当に意味側からず困ってしまった。
何もしていなかった、左手を 突然顔を上げたKAWAさんに引っ張られてベッドに倒れこんだ。
「か、KAWAさん」
倒れこんだ僕を、KAWAさんが抱きしめてくれた。
僕がKAWAさんの方に倒れこんだので、座ったKAWAさんも後ろに倒れこんだ。
「KAWAさん・・・」
僕の下にいるKAWAさんは、いつもどおり柔らかく・・・
KAWAさんのお腹が小刻みに揺れている。
僕の耳元にあるKAWAさんの顔からも笑い声が聞こえる。
多少は期待したのですが、どうもそう言ったことは起きそうに無かった。
「ねえ、KAWAさん」
KAWAさん:「ごめんなさい、みんなが待っているわ 早く行きましょう!!」