伊藤探偵事務所の混乱 61

静かなときは瞬く間に過ぎる。
3時間と言う長さは長いように思うが、感覚的には十分短かった。
気が付くと時間が既に過ぎていた。
KAWAさんは用意に忙しくなって、いくつかの言葉を残して帰ってしまった。
「好き」だったり「愛してる」だったりしたような気がするがはっきりとは覚えていない。
ただ、「又後でね!」という言葉だけが耳に残っていた。
体はきっと疲れているのに、頭はすごく冴えていた。
いや、きっと冴えているように思えた。
上着は改めて縫い直されたものが用意されていた。
詰まんない事が、頭をよぎった
kilikoさんが、針で頭をかきながら裁縫している姿・・・・
きっと、得意の変装で何とかしたのだろうなと思う。
今もって、この中にスカーフが入っているかどうかは聞こうと思ったが、聞いてどうする?
という考えが頭をよぎった。僕には到底演技なんて出来ないから この中に入っていると信じて行動しようと思った。
恐らく入っていないと思うから・・・・
みんな、思い思いの格好をしている。
表はきっと寒くなるから大きな上着を着るKAWAさん。
ぶかぶかの服を着る姿は、とてもかわいく僕の目には映った。
厚着をしている筈なのだが、体のラインを強調する事を忘れないarieさん。
手の甲にパフのようなものを付けて、手首を押さえた個性的なファッションだった。
比較に値する服が無いが、決しておかしく見えたりしない 個性的ではあるが色気の溢れる服であった。
ぬりかべさんはぬりかべさんだった。
所長は・・・・言いたくなかった。
センスの無さは所長にかなうものは世界中探しても居ないのではないだろうか?
明らかに上着と思われるダウンのジャケットの上にタイツのような白い網状の生地で出来たものを着込んでいる。
ジャングルを想定したような長いブーツに黒い雨合羽を切ったようなビニールで足とブーツの間を目張りしている。
所長:「これが最も合理的な服装だ!!」
皆の好奇の目に気が付いた所長が主張したが、合理性なんかどっちでも良かった。
その格好はおかしいでしょ!! と、皆言いたかったが言っても無駄な事も皆知っていた。
arieさんは、所長と目があった途端、深いため息と視線をそれ以降所長に合わせないようにしたようだ。
書くまでも無く、シェンさんもシェンさんだった。
所長:「で、どうやってこの先?」
kilikoさん:「車、バイク、自転車と用意しておりますが?」
西下さん:「僕には自転車を用意してもらおうかな? 買い物と通勤が楽になる」
arieさん:「お願いだから話を茶化さないで」
kilikoさん:「特にご指定が無ければ車を用意します。
arieさん:「私とerieriは、」
kilikoさん:「勿論、心得ております エンジンをかけてバイクを用意しております」
KAWAさん:「もう一台。あたしに・・・」
「KAWAさん、どうするんですか?」
KAWAさん:「人の運転する車は怖くて・・」
erieriさん:「あたしの前に出るんじゃないよ!前にいるのは全て敵としか認識していないからね」
KAWAさん:「大丈夫、そんな高度な事は期待してないから」
arieさん:「そうね、でも単純だから本当に前に出ないほうがいいわよ」
erieriさん:「arie!」
arieさん:「ごめんごめん、でも後ろにいる限り必ず安心よ」
erieriさん:「敵が後ろに来たときには、せいぜいうまく避けるのね!」
「KAWAさん!」
予備として用意されていたバイクにKAWAさんが跨った。
KAWAさん:「ちょっと、行ってくるわね」
フロントタイヤを持ち上げながら、発進するerieriさんのバイク。直ぐ後ろをarieさんのバイクが続く。
かなり遅れてだがKAWAさんが発進した。しかし、方向は少し違うほうだった。
車も出発した。
シェンさんの運転、所長が隣に座りぬりかべさんが後ろを監視する。落ちないようにしがみつく僕の構成だった。
西下さん:「寂しいか?」
「なにがですか?」
ローカルに私だけが聞こえるように話しているようだった。
西下さん:「行っちゃったよ、止めなくていいの?」
「止められませんよ、戦いに関しては僕よりずっとプロなんですから」
西下さん:「彼女の行ったほうには、待ち伏せてる敵がいるんだけどな〜」
「本当ですか?」
西下さん:「証拠が欲しいか?」