伊藤探偵事務所の混乱 65

所長:「消えるまで、長くても5分しか持たない。急げよ!」
シェンさん:「おっけー、死なない程度に頑張るね」
幸いにも後ろの2台の攻撃にKAWAさんの速度が大きく落ちた。
ぬりかべさん:「おい!」
・・・・
ぬりかべさん:「おい!」
言いながら、ぬりかべさんは僕の脇を肘で突いた。
僕は、自分のミスでKAWAさんが危なくなった事で、実は放心状態であった。
呼ばれても、自分の事だとは思えない・・・と言うよりも自分なんて呼ばれることが無いと思っていたので 返事が遅れた。
「は、はい!」
ぬりかべさん:「はいじゃない、次は?」
「えっ、所長?」
所長:「お前が始めた事なら、とっととやる。何も考えずに追ってる訳じゃないだろ」
「でも、僕のミスで・・」
ぬりかべさん:「本当のミスは、自分が死んだ時だ。何人死のうと自分が生き残ってればミスじゃない」
「でも、どうしていいか・・」
ぬりかべさん:「男なら最後まで責任取りな! KAWAちゃんが危ないんだろ」
僕の、焦点を失っていた目が、ぬりかべさんの言葉で 焦点を合わせ始めた。
焦点の会った先には、KAWAさんしか見えてなかった。
「ぬりかべさん、足を止めます 斜め前を狙って、こちらに誘導してください」
ぬりかべさん:「そう来なくっちゃ」
喋るより早く、手が動いていた
「所長、後ろをお願いします」
足元の銃を所長に渡した
所長:「所長の威厳が、無いな・・・」
未だ土煙の消えない岩場に、一発の弾丸を打ち込んだ。
飛び散る血が、土煙を染めて命中した事を知らせた。
所長:「これで、しばらくは頭を出さないでしょ」
また、助手席に潜り込んだ。
「ありがとうございます」
目から涙が出たのは、土煙が目に入ったのか 花粉症のせいだろう。
白い煙を吐きながら、弾がぬりかべさんの肩から誘導される。
KAWAさんの目の前で、炸裂する。
「ぬりかべさん、近すぎる」
はじける岩が飛び上がる。
岩が落ちてくる頃に後追いのバイクが通り岩粒の雨を受ける。
ウインクする、ぬりかべさん。
追撃者の足が遅れて、KAWAさんのバイクは少し前に飛び出た。
二発目の弾がKAWAさんと敵の間に炸裂した。
敵のバイクは、前輪が瞬間的に消えて火の玉の中に溶け込んだ。
「やった〜!!」
って、KAWAさんのバイクも爆風に吹き飛ばされた、そしてKAWAさんも。
所長:「右だよ」
シェンさん:「はい」
所長:「ぬりかべ君バックアップ」
右手を上げてシェンさんに、左手を上げてぬりかべさんに
所長は指示を出した。
吹き飛ばされるKAWAさんに僕はそれを気遣う余裕は無かった。
「KAWAさ〜ん!!」
飛ばされたKAWAさんは、車のほうに一直線に飛ばされてきた。
無意識に、車の荷台で立ち上がり前の椅子のヘッドレストに足を掛けて飛び上がった。
所長:「いて〜っ」
ヘッドレストと思っていたものは、所長の頭だったようだ。
「っさ〜ん」
声になるような、ならないような叫び声と共に空に飛び上がった。
いつもは柔らかく感じられるKAWAさんの体が、鉄の塊のような衝撃となって僕の体に伝わる。
小さなKAWAさんの体を庇うように、抱きついた。
そこまでは良かったが、後先を考えていなかった。
捕まえたKAWAさんを、助ける方法が無かった。
最悪、僕の体で・・・駄目だろう これだけの速度だ。
でも、少なくとも一緒にはいれる・・・・
「ぐぅっ!」
背中に折れるような衝撃。
KAWAさんの体を囲う僕の体、その体をぬりかべさんの大きな胸が受け止めた。
そして、そのまま車の荷台に落ちた。
ぬりかべさん:「大丈夫か?」
「次受け止める時は、胸の銃は外しといてくださいね 痛いから・・」