伊藤探偵事務所の爆発3

Arieさん:「注意力散漫、不注意、鈍感、間抜け・・・・」
ほっとくとどこまでも続く、おそらく彼女のボキャブラリーは数十分は持つだろうから早い目に降参するしかない。
「勘弁してください。もう」
西下さんの出してくれた僕の給料明細には3ヶ月前から、事務所賃貸料として14万円ものお金が増えていた。
西下さん:「振込みを確認してないのか?」
そういわれても、最初にもらったお金も使い切れてなく、月々の給料なんて気にしたことも無い。根っからの貧乏性は抜け切れず、同じ定食屋で同じ食事を食べている。
散髪も、大衆理容の900円。着る物にも気を使わず お洒落にも縁が無い。
縁が無いのには、彼女がいないからで 彼女がいないのはお洒落に気を使わないからなのか 卵と鶏のようにぐるぐる回って現在も解決していない。
とにかく、お金を使わない生活である。
であれば、振り込み金額も 残高も あまりにも僕の生活にとってはゼロが多い残高はお金ではなくただの数字の羅列である。気になるはずも無い。
「はい、とんと最近は・・・」
Arieさん:「所長と足して二で割ったらちょうどかもよ?」
西下さん:「残高を考えない点では、二人とも変わらないから同罪でしょう」
Arieさん:「それもそうね、ちょっとでも期待した私が馬鹿だったわ」
「期待してくれたわけですね」
自虐的に言ってみた。
Arieさん:「そうね、ミジンコとゾウリムシの間ぐらいの能力は期待してたんだけどね」
わずかな自虐も、深すぎる谷底よりは浅かった。
「どっちにしても、ここは僕の家です。出て行ってください」
西下さん:「それは無理じゃないかな?」
「どうしてですか?」
西下さん:「お金を返す手段が無いから、生活費も無いでしょ」
「へ?、銀行に行けば・・・」
西下さん:「銀行に行っても、カードが無ければ下ろせないでしょ」
「えっ?!」
自分の財布の中をひっくり返して探した。
「あっ、机の上に・・・・」
爆発の炎は、僕のキャッシュカードまで燃やしてしまったみたいだ。
「再発行しないと」
Arieさん:「どうやって?」
意地悪そうな視線を僕のほうに向ける。
「それは、銀行に行って 再発行を・・・」
西下さん:「どうやって銀行に行くのかな?」
思い出した、銀行って 普通にATMが使えていたから意識しなかったけど 日本の銀行のものでは無かったんだ・・・
「あれは、どこに行けば?」
西下さん:「さて、ロンドンが本店だけど 普通に行っても駄目だと思うよ 特別なカードであることは理解してるよね」
「はい」
一度、銀行で店長室まで連れ込まれた記憶がよみがえってきた。
Arieさん:「再発行に1ヶ月、それまでは私の奴隷になればご飯ぐらい食べさせてあげるわよ」
笑いを堪えながら言う。
Arieさん:「一時は、地球の支配者に成った人を 奴隷に使うのも良いかもね」
意地悪い、二者択一。
西下さん:「それはともかく、しばらくはここで我慢するんだね」
「西下さんなら、奴隷をせずともご飯を食べさせてくれますか?」
精一杯の、嫌がらせを西下さんを通じて言ってみた。
西下さん:「さあ、Arieさんの言うことを聞く範囲ならね」
所長:「ただいま〜」
赤い顔で所長は帰ってきた。
所長:「そしてお休み〜」
酔っ払っても、迷わず 僕のベットに消えていった。
無駄な足掻きをやめて、ソファーに倒れこんだ。
「勝手にしてください」
西下さん:「正直なところ、まだ、一人で暮らすのは危ないと思うよ。敵の手の内が見えてないから」
「敵って誰ですか?」
Arieさん:「聴かないほうが良いと思うわよ。そのうち嫌でも分かるから」
西下さん:「とにかく、当面は一人で出歩かないことだね」
「とりあえずコーヒーでも入れましょうか?」
Arieさん:「私は、カフェラテ」
西下さん:「俺は、ポットに」
「じゃあ皆さん、カフェモカと言うことで・・・・」
今度こそ、精一杯の嫌がらせだった。