伊藤探偵事務所の爆発16

未来さんがワインを飲むペースは衰えず、最後のはずのワインが、突然のアクシデントで新しくなり、そのまま飲みきってしまった。
幾度かの乾杯を繰り返し、僕もふらふらになった。
「そろそろ、部屋に帰りますか?」
未来さん:「新しいワインを頼んだのですけど、もう少し飲まれませんでしょうか?」
すでに頼んでいた。
ボーイ:「なんでしたら、お部屋にお持ちいたしましょうか?」
「そうしてもらいましょう、未来さん」
未来さん:「はい、そうおっしゃられるのであれば・・」
何故か、少し残念そうな未来さん。
二言三言、ボーイと小声で話をして 立ち上がった。
顔やうなじのような肌の露出した部分は、ピンク色に染まっていたが足取りや立ち居振る舞いはしっかりしていた。
僕も震えるひざを、手のひらで押さえながら何とか立ち上がった。
あまり、格好の悪いところも見せられないので、頑張って平静を装った。
そして、ゆっくり歩いた。
立ち上がった瞬間に、耳の奥で頭に血が流れる音を聞いたようで そのままアルコールが脳みそに流れてゆくような気がした。
その瞬間に、右ひざが少し崩れて、体が傾いた。
傍にいたボーイが手を出すより早く、未来さんの腕が僕を捕まえた。
なんとか右ひざの崩れを立て直したが、左ひざの崩れを立て直せなかった。
いわゆる、飲みすぎで腰砕けな状態だった。
そのまま、未来さんが覆いかぶさるように 二人とも倒れた。
「すいません」
すそを乱して倒れている、未来さん。言葉は口から反射的に出た。
腕を握ったままだったので、腕は僕の頭の上。反対側のひざを着いて完全に転倒するのを防いでいた未来さんは、僕に覆いかぶさるような姿だった。
未来さん:「こんなところで、はしたないですわ」
にこっと笑いながら言った。
眼前に見える、未来さんの姿は確かにはしたない、いえ扇情的な姿であった。
僕の腰の辺りに、反対側の手を付き未来さんは僕の腕を持って立ち上がった。
未来さん:「さあ、起きて」
突然の出来事、一瞬引いた血の気のお陰か すこし、肢体に力が入った。
引っ張られて立ち上がった。
立ち上がったとき、未来さんは吹くの乱れを反対側の手で直していた。
未来さん:「大丈夫?」
「あっ、はい 大丈夫です。」
未来さん:「じゃあ、行きましょう」
ふらつく僕を支えるために、さっき握った腕を後ろから体を回す形で持ち直し 歩き出した。いえ、歩き出したはずだった。
何者か、わからない力で 急に未来さんの方に引っ張られそのまま再び転倒した。
今度は、立場が逆転して未来さんが下で 僕が上の状態だった。
ボーイたちが集まってきて、二人を引き起こしてくれた。
地面に座る未来さんと僕。
「大丈夫ですか?」
何をしているのか、ドレスのすそをごそごそする未来さん。
ばさっと開かれたスカートから、白い足が出てくる。
そして、その足からヒールを抜き取る。
未来さん:「見て」
スカートの中から伸びる足は刺激的だった。
未来さんが持っている靴など気にならないほどに。
未来さん:「折れちゃったみたいですね」
「はぃ?」
実にあいまいな返事をした。
見ていないから、当然である。
未来さんの手に持った、ヒールはかかとの部分のヒールがぶらぶらしていた。
おそらく、僕をかばって転んだときに折れたのであろう。
「うふふふ」
座ったまま、未来さんが笑っている。
ぼくもつられて笑ってしまった。
ボーイたちは、おろおろどうして良いのか判らない様子でただ、立ち尽くしていた。
立ち上がろうとした僕は、ボーイに助けられながら立ち上がり、肘を未来さんの方に出した。
「では、お買い物に出かけましょうか」
少し打ったのか腰を抑えながら未来さんは立ち上がった。
未来さん:「はい」
折れたヒールのほうの腕を僕の肘にかけて歩き出した。
楽しいのか、うれしいのか 良くわからなかったし、酔っ払っているのか 素面なのか、それとも気分がハイになっているだけなのか。
とにかく、レストランを後にした。