Miss Lは、ローズバスが大好き 19

「話が違うではないか!」
電気代を節約しているのでは無いと言う事はすぐにわかる。ただ暗いのではなく不気味に暗いのだ。
その上、部屋の中は驚くほど片付いていない。故にこの暗さだとはじめて入った人はあちこちに動き回ることも出来ない。
怒鳴った男は小柄な紳士。紳士という言葉をどう理解するかという問題はありますが まあ、この場合の紳士は 年を取った男ぐらいの意味で 別にシルクハットもステッキもしていない。普通のスーツをおなか周りだけが苦しそうに着こなしている。
体を曲げるとさすがに隠し切れなくなるが、こんなこそこそ話をするようなところで背中を丸めて話さなければ、いっぱしの有識者に見えるだろうブランド物らしい。
やわらかそうな生地は体のラインをうまく隠し、しかしながら襟や袖のラインがピシッと揃っている。お金さえあれば、体型ぐらいはごまかせるもんだ。
出来たら、性格を直せば その顔ももう少しは良くなるとは思うのであるが、神経質な事をはじめて見た人でも気が付くぐらい眉や目じりを吊り上げてしゃべる様はあまりみっとも良い物ではない。
「話が違うといいますと?」
もう一人の男もあまり背の高いほうではないが160台後半ぐらいに見えるから普通ぐらいといったところ。既に、結構な年には見えるが異質な格好が年齢を不肖にさせる。
地毛なのかあまり手入れのされていない硬そうな毛を、ヘアバンドで上に導き これで茶色い髪の毛がピンク色や金色だったら後姿からパンクが趣味だと思ったろう。
もちろん服装もかなりのもので、首に巻きつけているのは恐らくマフラーであろうと思われるが 手を拭くための用途のものかそれとも首筋の寒さをカバーするものか、考えたくは無いがファッションのための物かまでは伺い知れない。
区別が付かないのは手近なものを巻きつけたからそうなったのか、それともその色を選んだのか 赤、黄、緑の三色の混ざり合った色で、もちろん今がクリスマスでないことだけはここにはっきりと言っておきたい。
よく見ると、その布は1枚でないかもしれない。ただ、裾のほうは良く汚れており 近づいても決してにおいをかいだりしたくない雰囲気を 神社に行ったときに感じる厳かさぐらいには感じさせる。
その下のシャツも、ズボンも原色系であることだけは、いやあったことだけは確かなようではあるが、あまり詳しく説明を続けると 気分が悪くなりそうなのでこれぐらいで勘弁してほしい。
「既に、何度も失敗しているというではないか!!」
小柄な男は、大きく腕を振り大またで歩いて怒りを表現しようとしているのだが、いかんせん環境がそうさせない。
足を前に出す前にはよく地面を見なければ何があるかわからない。腕も振り回すためにはよっぽど慎重にそのコースを選ばなければどこかにあたってしまう。
この男にとって何が壊れようと大した事ではないが、みるからに危なげな物の集合体である中に手を突っ込んで怪我をしたくは無いようで、しゃべり方も周りを気にかけながらなので 声が大きくなったり小さくなったりで 本人が思うほど迫力の無い状態である。
「失敗? 私が? ははは、何のことかな? 面白い冗談を ははは!」
まったくもって話がかみ合わないようである。それに、本気で笑っているようだ。
「知らないとでも思っているのか! 何度も出かけていってたった一人の男と女を始末できずにいるらしいじゃないか。犠牲も少なくないと」
小柄の男は少し上向き加減に顔を上げて、口の端を少し持ち上げて得意げに言っている。
「ば、馬鹿なことを言うな!!!!」
今までの笑い声が止まったかと思うと、化学反応のごときスピードであまり元々いい色とはいえない青黒い顔色が一気に赤く変色した。
「お前に指図されるようなことではない」
この男はこの部屋の主らしく、手も足も自由に動かして怒りを表現する。しかし、人間的にその表現は小さく どちらかといえば声が聞こえなければコミカルにしか見えなかったであろう。
「だいたい、あれは計画の中にもないし 私の趣味でやっていることだ。お前の仕事とは関係ない。大体、頼まれたこと以外でわしに口出しをするのは許さん」
普通の人なら後ずさりをするだろうほどの迫力。しかし、お互いにうまくかみ合ってないのか小さなほうの男は一切の反応をしない。逆に死んだような目のまま言い返した。
「あなたの生活に口を出すつもりは無いが、失った3体の材料を手に入れるのだって苦労させられているんだ。その上作る費用だって馬鹿にならない。金だって無尽蔵にあるわけではない 気を付けてもらいたいものだな」
お互いの間で接点があろうはずは無い。お互い自分の言いたいことを言い合っているだけなのだから。
それでも、お互い言いたいことを言い合ったのか それともお互いの言い分に憤慨したのかそれ以上お互いになにも言わなかった。
小さな方の男の電話が鳴った。
「ぷるるるる」
男は電話をとって、何言か話した後に電話を切って部屋から出て行こうとする。
「じゃあ成果期待する。計画通りいかない場合にはすぐにも資金を打ち切るからな」
捨て台詞を残して男は消えた。
「そんなはした金で偉そうにしよって! わしの偉大な研究の成果がまだ判っておらん。」
その後の言葉は、恐らく人語では無いのであろうが口の中で何かを唱えるようにしゃべり続ける。それはいつまでも続いた。