Miss Lは、ローズバスが大好き 20

若い日からそうだった訳ではない。恐らく天才とは彼のためにある言葉であろう。
天才をなんとするかはともかく、偏執的に一つのことを追い詰め それで常識では考えられない程のものを作ってしまう人の事を総じて天才というのであれば彼こそがもっともふさわしいと思う。
もちろん、人付き合いや出来ることならば人であることすら拒否するかのような打ち込み方が異常であることを除けば。
彼にとってもっとも大事なものは時間である。時間がもっとも大事な理由は自分の興味を持ったことの実験時間が長くなるからで、その時間を奪い取るような行為を最も嫌った。
学生時代からそうであったが、恐らくその研究成果を必要とした凡庸な助教授のお陰でとんとん拍子に院に進み、気が付いたらもっとも古株になっていた。
まったく人付き合いが出来なくても、いつの間にか教授になった助教授のの被害妄想が彼の地位を知らない間に引き上げ助手ぐらいにはなった。
彼の転機はその時で、すでに卓越した理論展開が 多くの雑事に忙しく研究なんてしている時間も無い教授の理解を大きく超え その才能が認められていたことによってぼろが出てある意味ベストなコンビが引き裂かれた。
教授になったのは良いことだったが、彼は自分の研究以外に一切の興味を持たず、人に教えるなんてとんでもない。今まで小出しに発表してもらっていた研究成果を発表する気も無く、なまじ大きな予算を得ただけに研究規模が広がり すでに収集が付かなくなっていたこと。
あまりにも大きな予算を使いすぎたために、その成果の確認を求められて彼の言ったことが凡人には理解できないレベルまで来ていたことが致命傷になった。
「わが手で究極の生物を作る。」
彼がそこで言った言葉だった。
多くの装置は特注品で引き取り手も無い大掛かりなもの。彼は装置ごと学外に放り出されてしまった。
少し田舎ではあったが広い家があったので、そこでも研究を続けようとしたが もちろん、無職の彼には予算が無い。
しょうがないので手慰みに作った、キメラ(合成生物)が人の目に留まりそこからの研究資金を受けることになった。
そのキメラは、彼にとってはただの失敗作だったから手放すことに何の抵抗も無い。もちろん、非合法なので正規のルートで販売することは出来ない。
現に最初に手放したときには、大きな新聞記事になった。
もちろん、失敗作としての出来が良かったためにあっという間に死んでしまいDNA鑑定では元の生物のものが出てくるために変種ということで片付けられてしまったのは彼の運が良かっただけである。
その後は、彼の研究の副産物は世界中の金持ちに人に公開できないペットとして販売されていった。また、その生物の組み合わせが極端だったことからオカルティックな人気が出て想像以上の人気を博した。
もちろん、彼以外にそんなものを作ることが出来るものはおらず、商品の市場価格はうなぎ上りに上昇した。
もちろん、彼にとって手放すものはすべて失敗作であり彼にとっては何の価値も無かった。もちろん、一体の成功作も作っていないのであるから順調に彼は生産を続ける金の卵として重宝された。
パトロンは、次第に力の強いもの それも、だんだんダークサイドに近い人々に代わっていったのであるがかれにとってそんなことはどうでも良い問題だった。
現在のパトロンである、長浦と会うまでは。
金持ちというのは不思議なもので人の持っていないものを欲しがる。誰も持っていないものを・・・と追い求めているうちに 普通の刺激ではすでに満足できない人たちがとなっていた。
奇妙としかいえない格好の動物たちも、数体飼った時点でもう飽きてしまった。形が奇抜なもの、おかしい行動を取るやつ 行き着いてしまった人の欲しがるものが尽きてしまった。
本来、人の望みに合わせて作っているわけではないが 長浦の連れてきたクライアントの依頼は彼の心を大きくくすぐるものだった。
「私の思う究極? それは人だよ だから人以上のものが作りたいんじゃないか」
昔、彼が受けた数少ない取材の中で話した言葉。そして、故にこのクライアントの依頼を受けてみようと思った。
ただ、問題なのは材料であったが、そのことに関しては長浦が難無く揃えてくれた。
そして出来上がったのが羽の生えた人間。それも白い羽を生やした少女。
完全に人としておかしくなった依頼人、それを引き受けた守銭奴、そして狂気の教授。どれ一つをとっても、まともではないが その集大成が最もろくでも無い物であったのは当然の結果であろう。
白い透けるほど白い肌の少女の背中には純白の羽がある。決して飛べないが意思に反応して動き いつしか自由に動かして見せるようになった。
もちろん、生まれを呪う権利は彼女には有ったが、それを拒む実力が無く程なく依頼人の下に旅立っていった。
ここから先はどうでも良いことだが、何をしたのか気が狂ってしまったようだ。ただ、依頼人も道連れにしてしまったようで 人として間違った行為に無いはずの倫理観が耐えられなかったようだ。
ただ、試行錯誤の過程で生まれたモンスター達が守銭奴までをも 狂気の道にひきずりこまれようとは想像もしなかったようだ。