Miss Lは、ローズバスが大好き 23

小柳刑事は大きな勘違いをしていた。
なんだか解ったような気がして出てきたものの、実は何の情報も得られなかった。
なのに・・・・
どうにも腑に落ちない、その内容を確認するために駅からの道のりを引き返しだした。
そうだ、
前回置き去りにしたケーキを今日は買っていこうとそのままケーキ屋に入った。
一度出てきたのに手ぶらでは帰りにくい。
甘い食べ物も苦手だが、それよりも甘い匂いが苦手である。
薄い水色のショーウインドーを越え、ガラスの自動ドアをくぐって中に入った。
甘い匂いを嗅いだ途端負けたような気になるのは照れくさいからだろうか。いつもは自分で来ないので始めて入った。
中には、白い肩から膝の辺りまでかかる フリフリのレースのついたエプロンをした女性が数人立っている。
「いらっしゃいませ」
一人がこちらに気がつき声を出した。他の二人も合わせるように声を出した。
思わず数歩引き下がってしまった。
「えっと」
ガラスケースの中を除きながら声を出した。
ケースの中には、フルーツがたっぷりのケーキが並んでいた。
奥歯の奥のほうに唾液が溜まる、甘い果実の匂い。
好きな人にはたまらないのではあろうが、好きでないものには鼻の奥をむず痒くさせる匂いでしか他ならない。
ましてや、エプロン姿の若い女性にあまりにも場違いな男を品定めするような目で見られてはいたたまれない。
「どういったものをお望みですか?」
店員に聞かれただけでどぎまぎしてしまう。
「あの、適当に6個ほど包んでください」
一番無難な回答をした。
見回すだけで気持ちが悪くなりそうだから・・・
「では、このケーキなどは如何ですか? 甘いものが苦手な方にも人気がございますが?」
露骨にいやな顔が判るのだろうか、甘さ控えめなケーキを出してきてくれたようだ。
「ケーキの材料としては珍しいフルーツトマトを味のベースに、氷結させた にんじんのスライスが自然な甘みを演出します。ベースは固めのパイ生地にスポンジを挟んだ物でクリームの量も控えめ 野菜がお嫌いでなければ非常にお勧めの当店だけのケーキです。」
こちらの態度を見たのか、ケーキの説明を笑顔で始める。一刻も早くここを出たかったので、
「それを二つ、後2種類 こちらは甘くてもいいので 2個ずつ下さい。」
流石に自慢のケーキだけはある、6個で3200円とは・・・・領収書をもらっておくのだった。
Mr.G:「小柳刑事が帰ってきますので、お茶の用意をお願いできますか?Miss.L」
「はい!」
今出て行かれたばかりなのに・・・・
Mr.G:「恐らく、何か買ってくると思いますので 苦めのものがいいと思いますよ 甘いものが苦手そうですから」
「はい、ではコーヒーでも用意いたします。」
Mr.G:「あと、・・・・・・まあ、いいんですけど 小柳刑事が誤解しますので あなたの考えを仰られないほうが良いかもしれませんね」
諭すような言い方で、Mr.Gが言った。
 
ケーキの包みはわざと持ちにくく出来ているのだろうか?
もう少しコンパクトに作ってくれていればいいが手に持って時折足に引っかかってしまう。
箱の中で倒れたり、動くと形を崩してしまうので気を使う。他の人より背が高いからかもしれないが そばを通る人の肘にあたっていやな顔をされる。
三人で並んで歩く女子学生。広くは無い歩道いっぱいに広がって歩いている。
きっと目が合えばいやな顔をして道を空けてはくれるんだろうが 自分たちは何も悪くないと言いたげな表情をするのだろう。
その上、話に夢中でこちらの事なんかほとんど見ていない。
10mぐらいまで近づいたところで、ケーキを胸の高さまで持ち上げて女子学生にぶつかるのを避けた。
ちっともこっちを見ていないことから、ぶつかって文句を言われそうだったから・・・
「あっ!」
耳の奥に響く甲高い声で女子学生が叫んで、腕を振り上げ私の胸の高さまで持ち上げてあったケーキの箱を跳ね飛ばした。
ぎりぎりまで箱を追って、体のバランスを崩しそれでも箱を落とさないように対を入れ替え尻餅を付きながらケーキを抱え込んだ。
叫んだ女子学生も 同じように尻餅をついて座り込んでいる。
私が対を入れ替えるときにぶつかったのかもしれないが、右足は足首がお尻まで曲げられていて段のついたスカートはひざの上までまくれ上がっている。
結構はしたない姿で今の子達の貞操概念はどうなっているのか、やはり 大人がちゃんと教育しないから。
と下心もなく見ている目の前を黒い影が横切った。