Miss Lは、ローズバスが大好き 24

消えてしまう体、想像も出来ない姿、事実とわかっていても反応できない。
だが、実際に見たとなると話が違う。十分に相手として捕らえられる。
目の前を通り抜けたのは、幸いにもケーキを追っていて狙いが狂ったのが幸いしたのだろう。
だが、お陰で相手の姿を見極める事が出来た。
勿論、体には自信がある。体捌きにも自信がある。
勿論それは相手が人間であればではあるが、少なくとも来ると解っていれば対処方法は取れるだろう。
空で大きくターンをして、こちらに向かってくる。
何よりも問題なのが、俺の足元で俺の足を掴んで 固まっている女子高生の一人。
「は、離してくれ」
足を振り回しでも、離れない。
最悪の状況である事は確かだ。
勿論、拳銃なんていうものは普段から持ち歩いていない。
持っているのは、人にしか使えない手錠と手帳だけ。
ぺらぺらで、何の飾りもついていない手帳は良くあるアメリカ映画のように危機一髪で弾を止めてくれる力も無い。
帰ってきた化け物を体を低くして辛うじて避けた、頭を庇って振り上げた腕には生暖かい痛みが走った。そして、そこに腕に服のまとわりつく感じがする。
嫌な記憶が蘇ってくる。過去の事件の忌まわしい記憶が。
体を沈ませたら、女子学生の鞄からぶちまけられたものが散らばっている。
無いよりはましだと、その中から武器を取り上げた。
武器になるものは・・・・
最近の女子学生本当に勉強をしているのだろうか? 鞄の中から出てきたのは雑誌と化粧品だけ ただ、お陰で武器には困らない。
とりあえず手近な瓶を投げつけた。勿論当るとは思っていない。
ただ、相手も近づく事を考えるはずだ、隙が出来るとしたらその時。
ようやく、硬直した女学生の手が足から離れて立ち上がることが出来た。
幾つかのものを投げつけた後に手触りで解る武器になりそうなもの。
一つはブラシでもう一つは・・・
立ち上がり、相手に向かって半身に構える ブラシを前にして構え相手と腕とそして顔を一直線に向かうように構える。
再び空中で大きくターンしてこちらに向かって飛んでくる怪物。
冷静に見れば見るほどおかしい。確かにみんなが言うようにどこからどう見ても小さな悪魔の姿。
黒い小動物にしか見えないが羽根を生やして飛んでくる姿は無気味な姿はやはりみんなが恐れている形だ。
小さな体だが、羽根を広げた姿は大きく見えた。黒い体は乾ききったものではなく黒光りするどこか湿り気を帯びたものであった。
体には体毛らしきものは無いので、そう言った皮膚の艶だろう。
空を飛んでいるというよりも、ある高さまで飛び上がった後滑空してくるイメージだ。
だけに一度の攻撃の後、完全に飛び去った後にしばらく高さを稼ぐために時間がかかるお陰で相手の攻撃に対する暇が出来る。受け止めるための準備が整う。
ただ、空からの攻撃なんて受けた事が無いから右から繰るのか左から来るのかも解らない。
左右に体をゆすりながら一直線に飛んでくる。
真昼間でよかった。真っ黒な体で滑空しながら攻撃してくる蝙蝠のような翼だから夜だったら避けようも無かっただろう。
近づく相手は、大きく開く口と手と言って良いかどうか解らないけど長い爪の生えた前足。
どちらも前からの攻撃しかない。腕を前にして飛んでくる相手と言う事は多少の知能があるらしい。
映画と違い、本当の戦いと言うものは合理性が全てである。
人と人との戦いで解ると思うが、いきなり頭突きをする人はいないだろう。どう考えても手か足が先に出る。映画で見る悪魔のように頭から突っ込んできた日には 避けられたらどうしょうもない。手だけなら避けられてもまだ頭が後ろにあるから改めて顔で攻撃が出来る。極めて合理的だが 一般的には何故か頭から突っ込んでくるようである。
今回の化け物は、手から突っ込んでくる分頭が良さそうだ。
ただ、それ故に僅かに攻撃の手がぶれる傾向がある。つまり迷いが有るのだが それがなおさら知能を感じさせる。
迫り来る手を、思いっきりブラシで跳ね除けた。硬質のプラスチックで作られたヘアブラシに爪がめり込む感触と 捻られてあんなに小さなブラシが捻じ曲がるのを感じた。
思ったより、相手は頭がいい右手と左手を別々に繰り出してきた。
片手だけなら弾き飛ばした勢いで、体ごと向きを変えることも出来ただろうか両腕を振り回すように振り下ろしてきているので弾き飛ばしても 腕の方向を変えるのが精一杯。
まだ、その後の牙の攻撃は残る。
にやっと笑ったのか、それとも口を開く動作をしたのか口の端が持ち上がった瞬間に 一気に大きく口を開けた。
牙から一気に引き開けられたために、牙の端から涎が飛び散った。
飛び散るはずの涎は、空気の力で口の中のほうに飲み込まれていく。
「ちっ」
半身に開いた前の手に握ったブラシで一気に手を弾いたために、体は相手に向かって開いている。