Miss Lは、ローズバスが大好き 27

ケーキはとてもケーキとはいえない状態だった。
いっそのこと、そのままクリームの上に泳ぐケーキをデコレーションしてみた。薄く 薄くスライスされた赤いニンジンはピカピカに光るシロップでコーティングされている。
スポンジの少ないケーキはそれはそれなりにオブジェのようにお皿に盛られた。いやしんぼした訳ではないが、盛り付けるのに指についたクリームを舐めてみたら美味しかった。
苦めのコーヒーが合うだろうと、多めにコーヒー豆を入れた。
コーヒーを入れ終わって、お盆に載せてMr.Gのそばまで行ったときには小柳刑事は少し落ち着いたようで椅子に座り込んでいた。
「どうぞ」
いつものように、Mr.Gの机の上にコーヒーを二つ置いてオブジェと化したケーキもおいてみた。
自分のテーブルに自分のコーヒーと、ケーキもどきも用意して座り込んだ。
Mr.G:「Miss.Lのいない間に色々な事が解ったよ」
比較的上機嫌なMr.G
小柳刑事はそれどころではないだろう。
小柳刑事:「だから、ロボットやそんなものじゃなかったんですよ」
Mr.G:「で、痴漢撃退スプレーでのた打ち回って倒れたって訳ですね」
小柳刑事:「そうなんです、信じられないほどのスピードで飛んで攻撃してきたのに、それも簡単に」
「じゃあやっつけたんですね! あの化け物」
だからあんなに傷だらけだったんだ、でもこれで事件も終わったんだ。
小柳刑事:「残念ながら・・・ 連れて逃げられてしまったんです。」
Mr.G:「そいつは、ちゃんと人の姿をしてたんだね」
小柳刑事:「そう、バイクで怪物を連れて逃げたんです。」
Mr.G:{追跡は?}
小柳刑事:「残念ながら・・・・、すいません追いかけられなくて」
「無理ですよ、こんなに怪我してるんですから」
小柳刑事:「すいません、不意にやられたもんで」
Mr.G:「いや、相手の正体が解っただけでもお手柄お手柄」
小柳刑事:「俺は、犯人を捕まえたいんです。こんな馬鹿げた事をする犯人を」
Mr.G:「まあ、そう焦らない こういうものには順序と言うものがあるんだよ。」
小柳刑事:「被害者に順序は無いんです。少しでも速く解決しないと」
小柳刑事は立ち上がって、机を叩いて力説する。
Mr.G:「落ち着いてください。せっかく手がかりが見つかったんですから」
Mr.Gは、何か手がかりを掴んだようだ。私がこの部屋にいない間に何か掴んだようだった。
Mr.G:「Miss。Lはお酒お好きですか?」
自慢じゃないが、お酒は好きです。日本酒、焼酎、ウイスキー、ワインどれも好きだけど最近はお金が無くて飲めてない。余計な事を思い出させてくれる。
お陰さまで最近は、小さなビールの缶の晩酌まで許されない経済状態だったのです。
「たしなむ程度でしたらお付き合いしますけど」
あとで、お茶に入れるためにおいてあるブランデーをちょっと拝借しようかしら・・・
Mr.G:「小柳刑事もこの後は非番でしょ?」
小柳刑事:「警察に日曜日も休日も有りません」
Mr.G:「その怪我で? たまには上司の顔を立ててあげたらどうですか?」
小柳刑事:「休め休めって五月蝿いだけです。」
Mr.G:「それに、休みにするといい事があるかもしれませんから、ねえ、Miss.L」
「はい?」
Mr.G:「小柳刑事が、お酒を一緒にいかがですかって?」
小柳刑事:「はい?」
「ご一緒させていただけるのは嬉しいのですが、お怪我に触ります」
小柳刑事は耳まで赤くなっている。私はただ驚いている。
Mr.Gは、真っ黒な名刺に薄緑の字でBAR ウーダンと。
実際のところ、喉が鳴っていた。さっきも言った通りひさしぶるにアルコールが飲める。名刺の感じからいくと極めてシンプルながらよく目を凝らさないとわからない文字には独特の雰囲気がある。きっと、雰囲気の良さそうなお店でしょう。
Mr.Gの意図は解らないけど少し気分としては嬉しかった。
小柳刑事:「しかし、何故?」
Mr.G:「あれ? Miss.Lをお誘いするのは嫌なのですか?」
小柳刑事:「そ、そんな滅相も無い 光栄です」
「ウーダンって珍しい名前ですよね、もしかしてロベール・ウーダンですか?」
Mr.G:「その通り、よく珍しい名前をご存知ですね。最近 流行だからですかね?」
小柳刑事:「ロベール・ウーダンって最近流行りの韓流スターか何かですか?」
「小柳刑事、フランス人です」
あまりにも的外れな返事に、驚いて小声で教えてあげた。
Mr.G:「お調べくだされば何故そこに行くのかおわかりになると思うのですが」
小柳刑事:「事件と関係が?」
Mr.G:「その前に、Miss.Lの了解を取る必要があるとは思うのですが」
ロベール・ウーダンか、何か面白そうな店。勿論、誘われれば喜んでついてゆくんですけど これって経費かな?