Miss Lは、ローズバスが大好き 45

「だからといって、今更武器を替えるわけにも行くまい」
憎憎しい長身の男の言い分だが、確かにその通りである。
Miss.Lは気にした様子も無く再び構えを取った。何故か、顔がこちらを向いたときに軽く微笑んだような気がした。
決して余裕のある状況ではないのに。
再び響く風切音。長身の男も構えを取る。
大きく遠心力の付いた棒が振り下ろされる方向に向けて 男が体をひねって避けてMiss.Lに攻撃を仕掛ける。
突きと違い、はらう動きは遠心力を生かしやすいが 相手に避けられたときに次の攻撃に移るのに時間がかかる。突きの時には仕掛けられなかった相手が その隙を見て攻撃にかかる。
下からまるでボクシングのアッパーカットのように 地面すれすれから上がってくる相手の腕の長さを二倍にする武器が握られている。
棒の間合いの すぐ内側からすらそのリーチは届く。
なぎ払った棒の越えた、反対側に斜めに進みながらの攻撃である。
Miss.Lの防御が間に合わない。そう思ったときに 地を這うような低い攻撃の角度が変わった。
いや、そう思ったのは間違いで 相手の体が傾き倒れたので 自然と腕の角度が倒れていったと言うのが正しい。
長身の男はそのまま地面に転んだ。
Miss.Lの棒が、足を払うほどではないが足にかすったようで その衝撃で足の踏み込みが悪く力を入れた瞬間に踏ん張りが利かずそのまま転んだようだ。
最も驚いたのは相手のようで、すぐには立ち上がれなかった。
だが、すぐに気を取り直して 転がるように回転して距離をとり、腕を軸に地面を肘で打つようにしてそのまま立ち上がった。
「あら、避け損ねたようね」
Miss.Lは相手をからかうように言った。
「かすっただけだよ」
なぜ今の攻撃が当たったんだろう?、私にも今の攻撃が当たった意味が判らなかった。
男にとってはいっそうかもしれない。長身の男は、しゃべりながら足を何度か踏み込み足の感触を確認しているようだ。
そして何事も無かったかのように構え直す。
二人の間にはルールがあるのか、お互いが構えを取るまで攻撃しない。まるで、戦いを楽しんでいるようだ。
「じゃあ、次は俺の番かな?」
長身の男の顔は先ほどまでと違って 完全に本気の顔つきになってきた。にやけた表情は無くなったようだ。
「さあ、それはどうかしら?」
言い終わるのを待たずして、Miss.Lは再び攻撃に移る。
今度は、男の右上から振り下ろした棒が途中で変化する。振り下ろしている途中で右手の支えを離し左手だけにして棒の到達距離を稼いでいる。
左を前に構えているMiss.Lの棒の長さはゆうに1mは追加された。
だが、男もその攻撃を予測していたようで、腕いち早くガードに入る。
腕を伸ばした状況であれば、その腕を跳ね上げてしまえば続く防御も攻撃も出来なくなる 大きく踏み込んで受けに入るのは武術のセオリーである。
だが、防御したのと反対側の肩に向かって一直線に棒は振り下ろされた。
明らかに左肩を攻撃しているMiss.Lの棒を右側を防御して受けようとしている長身の男。当然、Miss.Lの棒は吸い込まれるかのように肩に炸裂した。
膝を突いて崩れる男に、一度引いた棒が突きこまれる。
膝を付いたせいで、Miss.Lに背中を見せた男の背中に何発かの突きが繰り出され 男が地面に転がって避けるまでの間男の背中に当たり続けた。
大きく距離をとったところでようやく起き上がった男は、男の右手は左肩を押さえている。
「逃げる? それとも降伏する?」
Miss.Lは男に言った。
「だれが。偶然に攻撃があたったと思って調子に乗るんじゃない」
明らかに余裕は無くなっているが長身の男は 引くそぶりを見せなかった。
どちらかというと信じられないという心境ではないのであろうか。
明らかに攻撃される側のガードを完全に外していた。
「なぜ受け損ねたか、信じられないような表情ね?」
Miss.Lの言い方は、さっきから普段と違う。いつもは常に丁寧な言葉遣いなのだが いや、今も十分に丁寧な言葉遣いなのだが、相手を威圧する迫力がある。
さっきの攻撃の前に微笑んだように見えたのは やはり事実だった。なんらかの相手に判らない手段を使って混乱させているのであろう。
長身の男はこちらの出方を待っている。いまは、攻撃する余裕は無い。左肩には遠心力をつけた棒の一撃が振り下ろされたのである。骨が折れたか少なくとも使えなくなっているはずだ。背中に受けた打撃も無傷と言うわけではない。
それに、こちらの攻撃当たる理由が判らない様ではうかつに踏み込めないのが本当であろう。だが、諦めているようには見えない。蛇のようないやらしい目でこちらの様子を伺っている。
「おしえたげましょうか?」
Miss.Lの信じられないような発言