Miss Lは、ローズバスが大好き 46

「はなしたいんなら聞いてやるぜ」 と 長身の男
「可愛くないけど お教えしますわ」
Miss.Lは得意になった風でもなかったが、いつものような穏やかな笑顔で話し始めた。
「Miss.L 私がこの後は」
見ているだけでも判る、手傷を負っていても手ごわい相手である。何か他の武器を持っていないとも限らない。
うかつな事はいわないほうがいい。Miss.Lの言葉を遮るように言った そしてMiss.Lの前に出ようとした。
しかし、Miss.Lの手で遮られた。
「未だ危ないから近づかないで、それにもう終わっているから大丈夫。」
言葉の最後にMiss.Lの視線が長身の男に移ったが、男諦めている風は無い。
「最大の理由は あなたは、人を殺しすぎたから私に勝てないわ。」
相手にとっては禅問答のようなものであろう。
Miss.Lの話は続いた。
「この棒術は、モンゴルの奥地 あなたの言うところの田舎拳法なのよ。でも、歴史の中には田舎が政権を握った事があるのを覚えている? それもつい最近まで。・・・」
中国は、殆どの時期で漢民族がその政権を握っている。しかし、国土は広大で場所によっては中国と言うものの存在すら知らない人たちも少なくない。
人口の多い地区、少ない地区色々あるが 過去に長い時代を漢民族の支配の無い歴史がある。それが元の時代。ジンギス・カンが一台で中国を統一した時代「元」の世代である。
万里の長城を作ってまで防がなければ防げなかったモンゴル人の支配の時代である。
遥か昔であるが、中国4000年の歴史の中では最近の事である。
多くの拳法も、それと同じぐらいの長い歴史がある。
その後世、フビライの時代になって 栄華を極めた元王朝には多くの拳法家が集まりその派を競った。しかし、元王朝の警備に彼らが付く事はなかった。
元王朝には秘められた業を使う 警備隊が影にあった。
その中の一人、棒術を使い無敵の名を得た男がいた。
しかし、後にその男は元王朝と袂を分かつ事になる。男の信念がその武術を強くし、その信念ゆえに袂を分かたねばならないからであった。
その男は、生まれ故郷の山奥に帰り余生を送った。
そして、細々と代々その男の技は引き継がれていった。
いくつかの拳法の中に、名を残しながら。
そして、偶然学生旅行のなかのトラブルで訪れた女子大生が現在の継承者である。
Miss.Lその人である。
この棒術の特徴は、その棒にあり 少林券などで使う棒とは違い その棒自身の表面を火で焼きしめてある事。
そして、棒の両端には金属の輪で押さえられている事。
まあ、簡単に言えば孫悟空の如意棒のような形をしている。
そして最大の特徴は、両サイドに開けられた穴で その棒を振るたびに大小両サイドに開けられた穴から鳴る音であろう。
そして、それがMiss.Lの使う棒であった。最もMr.Gが作ったもので 棒自身はカーボンで作られている事と途中で二つに分けられるようになっている事以外に差は無かった。
普通に考えれば、音などを出せば小柳刑事の指摘どおり不利になる事は間違いない。しかし、故意に音が出るようにしてある。
すでいん、今の拳法はその時代に多くを完成させていた。
最も新しいと言われる形意拳蟷螂拳ですら完成していたと言われている。
棒術無敵といわれた彼の戦った事のある相手であった。
そして、負け知らずであったということはこの棒にも秘密がある。
一般的に気配を知るというが、人はエスパーではない 何も無いところから情報を得る事はできない。
しかし、訓練で空気の流れ 音、目から見るもの、相手の視線の動きから気配を感じるのである。
それを逆手に取ったのがこの棒で、二箇所に開けられた穴は上下とも同じ方向に開けられており、棒を90度まわすと音が変わる。
一流の武術家同士の戦いでは、二〜三度拳を交差させるだけで相手の動きが読める。それが特徴的な動きであればあるほどそれを元に相手の動きを判断する。
廻っている棒の音が変われば攻撃に転じると信じているからこそ、電車の速度を越える棒の動きを追い切れる。逆にそのタイミングを狂わせられると 実際の棒の動きより防御が早いと、防御してないところを攻撃される。もちろん、それを推し量れるだけの実力があればの話ですが。
つまり、Miss.Lの強みはその棒の使い方である。
「だから、あなたには勝てないわ 強すぎるから」
棒を立てて、相手に向かって指を出してMiss.Lは説明を終えた。
「ネタが判ってしまえばつまらない手品だ」
男の顔に笑いが戻った。決して炭素いい表情というわけではない。
肩を抑えていた手を離し、改めて構え